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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/05/18 (Sat) 13:32:02

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No.191
2012/09/16 (Sun) 22:30:05

お付き合いしだしてまもなく?な感じ?


しかし悪い癖がではじめたかな。気をつけねばねば……
もう9月も中旬なんですね。まだ蚊に刺されてあっちこっち大変なことになってますがオンリーの原稿のことも考えなくてはいけませんかね……。



中天間近の陽の光を横顔に浴びた彼女はその男の顔を覚えていたらしく、出会ったとたんに微笑んだ。
軽く首を傾いで挨拶をすると、相手は緊張でもしているのか、顔を紅潮させて直立した。天から垂れられた糸で繰られてでもいるかのように背筋を伸ばし、不注意に見えると忠告したにも関わらずまったく直す気配もないやわらかい雰囲気を漂わせている彼女を、まるで己のものであるかのように見下ろす。
回廊の角に姿を潜めた公瑾は無表情で男と彼女を眺めやる。別段、覗くつもりなどなくたまたま見かけただけだったのだが、現れ出でる機会を失したがゆえに足を止めた。彼らの死角に入ったのは偶然だ。
気に食わぬ。公瑾は視線を細めて成り行きを見守った。
男は袂から小さな包みを取り出した。わずかに身を屈めて包みを彼女に渡す。両手でそれを受け取った彼女は、無邪気な笑顔で首を垂れた。男に礼を言ったのだろう。
袖を浮かせて頭を掻く男は、だらしなく脂下がり、笑んでそこに残る彼女を、未練がましくちらちらと振り返りつつその場から去っていった。男がいなくなったのち、彼女は手のひらの包みを見やって笑う。
――気に入らぬ。誰の目につくともわからぬところで斯様な振る舞いをするなど、男も彼女も自身の立場というものをまったく理解していない。
「公瑾覗き見ー」
「趣味わるーい」
突然、足元から聞こえた声に公瑾は眉根を寄せた。似た顔が2つ並び、白い歯を見せてにやりと笑いながら公瑾を見上げている。大喬が左手で意地の悪い笑みを半分覆うと、小喬は右手で歯を隠して笑い声を忍ばせた。
「お2人に言われたくありません」
「私たちはいま来たところだもんねー」
「ずーっと見てた公瑾とは違うもーん」
それぞれから放たれた言に公瑾が詰まると、姉妹はさっさと角から躍り出て彼女に向かって駆けていった。
「花ちゃん、誘いに来たよー!」
「尚香ちゃんを誘いにいこー!」
両腕を広げて彼女の下に行くと、彼女は笑って頷いた。
「ついさっきお菓子をもらったので、みんなで食べましょう」
「いいのー?」
「やったー!」
はしゃいだ姉妹とにこやかに語らいながら、彼女は建物の奥へと消えていく。姿がなくなった方角をしばし見つめたのち、公瑾は彼女に背を向けて来た道を戻ることにした。
 

公瑾は、手ずから丸めた竹簡を机の前で待っていた花に渡した。
「こちらを程公へ。それが終わったら、あなたは仕舞いにしてくださってけっこうです」
「わかりました」
しっかりと簡を両手で受け取った花はこくりと頷いた。彼の傍らに積まれた山をちらと見て、まだ終わらないのかと問うことはやめた。文字の読み書きがおぼつかぬ己と彼とではなすべきことの量がまったく違うのだ。手伝えることはあるかと申し述べても、きっと手習いの延長を言い渡されるに決まっている。
ためらいも一瞬のこと、花は顔を上げて行ってきますと挨拶をして踵を返した。
「ああ、花殿。私も一緒に行きましょう」
「え?」
「子敬殿に用事があるのです。途中までお供しますよ」
涼やかに笑った公瑾は、座を降りて沓を履いた。花の背を軽く押し並んで執務室を出る。歩調を合わせ、他愛のない会話を交わしながら回廊を歩いていくと、ふと公瑾が足を止めた。
「公瑾さん?」
花がやんわりと振り返れば、公瑾は遠くを見て何やら思案にふけるような顔をしていた。首を傾げると彼は薄い笑みを刻む。
「どうかしましたか? あ、もしかして忘れ物をしたとか」
「あなたではないのですからそれはありません」
「……公瑾さんって何気に失礼ですよね」
頬をふくらましかけた彼女の不満げな表情に、公瑾は口角をゆるく上げて目を細めた。
――やはり、いた。
この回廊のこの場所で、常に偶然を装って花を待ち伏せしている男のことを余所目に確認する。今日もまさにその通りだった。公瑾がいることに気づいて出辛くなったのだろう。この間と立場が逆転し、今度は男のほうが曲がり角の陰に身を隠して様子を窺っていた。
睨みあげている花を見おろしながら、公瑾はこの状況を愉しんでいるように笑った。
けれども花は、その公瑾の表情が自分を小馬鹿にしているのだと受け取り、口先を尖らせてぷいと顔を逸らした。
「私、先に行きます」
「お待ちなさい。……埃が付いていますよ」
その一言で花は進みかけた足を止め、公瑾を振り返る。そして髪や顔を払ったり撫でてみたりした。公瑾は微笑み、懐から手巾を取り出して花に近づくと、軽く曲げた指で頤を持ち上げ彼女の顔を上げさせる。
「取ってあげますから、しばらく目を瞑っていらっしゃい」
「すみません。ありがとうございます」
そうして花は言われたとおり、素直に瞼を下ろした。視界を閉ざした彼女の眼前で公瑾は片目を眇めて苦く笑う。
公瑾はあでやかな香りの漂う手巾を花の頬に当て、おとなしく目を閉じている彼女を凝視した。
愚かしいほどに従順な娘。偽りに疑念を抱かず真正面から受け止めるなど正気の沙汰とは思えぬ。――けれども、ひとの口から吐き出される毒すらそのまま身の内に取り込んで昇華させてしまうのだから手に負えぬ。
このご時世、これほどの危うい存在は他の誰より、自身の隣こそ最も似合う。手放すなど以ての外だ。
男の姿がまだあることを確かめながら花の唇をついばんだ。それから手巾で頬を軽く撫ぜ、男が身を転じていなくなったのを目視したあと、彼女に終わったと声をかける。
「程公は文台様の頃より孫家に仕えている古参の方。身だしなみはもとより、失礼があってはいけません」
「は、はい、わかりました、……けど、――あ、の、いま」
花の首筋や眼元がほんのりと朱色に染まっているのを見、公瑾は満足げに笑みを深めた。
「それでは、私はここで……、ああ、そうだ、あなたに笑われるところでした」
羞恥と困惑と怒りと、いずれを優先させたら良いのかわからなくなった花は、表情の定まらぬまま公瑾を見上げた。袂から取り出された小さな包みをつまんだ公瑾の手を眺め、それが自分の目の前まで運ばれてくると、慌てて簡を脇に挟み、胸の前で両手を広げて甘い匂いのする包みを受け止める。
「私は不得手ですが、あなたはお好きでしょう?」
「これ……お菓子、ですか? 珍しいですね」
まるで匂いを遮るかのように口元や鼻を覆い隠した公瑾を見ながら、花は首を傾げた。苦手とするものを持って歩くなど妙であるが、仕事中に渡してくるというのも珍しい。どうしたのだろうと、公瑾の内情を探るようにあれこれ考えていくと、あるひとつの事柄にたどり着いて身が震えた。花は急いで包みを彼につき返す。
「こ、これ、女のひとからのもらい物だったらお返しします! もらったプレゼントを他人に上げるのは良くないです!」
事が発覚したら恐ろしいことになりそうだ。切羽詰まった顔で公瑾を見上げると、彼はその行為に目を瞠り、半瞬ののちにため息をついた。
「何を考えているのです。それは私が買ったものですよ」
「……え?」
「この私が、あなたのために、わざわざ買い求めました。要らぬというならよろしい、大喬殿、小喬殿に渡します」
眉根を寄せて差し出された包みを再び摘まもうと公瑾が手を伸ばすと、花は急いで自らのもとに戻した。彼女の行動に公瑾は片眉を跳ね上げる。それからたっぷりの時間をかけ、面白げに口角を上げた。
「花殿。私に言うことがあるのではないのですか?」
「…………あ、りがとうございます」
とんでもない誤解でひどく失礼なことをした。公瑾と交わらせていた視線を徐徐に下げ、花は耳まで赤くなって俯いた。そして包みを、中身がつぶれそうなほど強く抱きしめる。
「花ちゃんをいじめてるー」
「公瑾ってば恰好わるーい」
「人聞きの悪いことを言わないでください」
またしても絶妙な頃合いに姉妹が割り入ってきた。つむじ風のように公瑾の横を通り過ぎて花の左右に付くと、2人は見た目に相応しい笑顔でもって彼女を見上げる。
「花ちゃん、もうお仕事は終わった? 一緒に遊べる?」
「尚香ちゃんがおいしいお茶を御馳走してくれるって!」
「いえ、仕事はまだ残っています。これを徳謀さんに」
「それは公瑾がやるからいいって!」
「だよね、公瑾。あとはよろしく!」
大喬は花の脇から竹簡を取り上げて公瑾へと放り、小喬はあっけにとられた花の袖を引いてさっそく方向を転じさせる。確か以前にも似たようなことがなかったかと公瑾は渋面を表したが、2人は意に介する様子などまったく見せず、おろおろするばかりの花の、上衣の袖を引っ張って攫っていく。
「今日はお菓子をいっぱい用意してあるんだよ」
「果物もたくさん準備しておくって言ってたよ」
「――公瑾さん、ありがとうございました! あの、大切にしますから!」
左右に従う姉妹から緩やかに歩みを促されている花は、首をひねって声を上げた。姿を消す間際、大喬と小喬がわずかに公瑾を振り返ってにやりと意地悪い笑みをこぼしていく。公瑾は書簡を握りしめたまま嘆息したが、3人の背に向けては苦い笑みを刷いた。身寄りのない娘に親しい存在ができたことは良いことだが、素直に喜べぬあたり複雑だ。けれど、あの2人以上に強力な障壁もなかろう。
らしくもない行動をしたものだと自嘲してみるけれど、彼女のこころが織り成す不可思議な妙薬は己にこそ必要なのだから仕方がなかったのだと結論付ける。自身以外の男に彼女の目を向けさせることなどあってはならないのだ。
放られた書簡をつかみなおした公瑾は、虫除けのためのさらなる一手を脳裏にめぐらせながら、立ち尽くしていた場所より動きはじめた。

 

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