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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/05/04 (Sat) 14:17:43

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No.226
2013/09/16 (Mon) 22:25:54

羽扇捏造話(文若さん生存)。羽扇ルートなので玄徳軍に。
特定のひとはいません。
蜀プチのペーパーラリーに使用したものです。
いやしかし本当にひどい扱いですね。誰とは言いませんが。進歩ない





 長安は宮城の内にある、春の暖かさにほころんだ彩り鮮やかな花花に囲まれた庭の中央に、その景観にそぐわぬ雰囲気を漂わせている四阿があった。八角の屋根の下では、孟徳が緋の衣を揺らして茶を飲んでいて、その対面から玄徳が腕組みをして無表情でそれを眺めている。中央の小さな卓には玄徳の碗もあるが、まったく手を付けていない。湯気はとうに消え失せ、中身はぬるくなっている。
 そしてその狭間では、緊張の極致にある花が、俯かせた視線の先で桃色の上衣をいじっていた。
 こうしてどれくらいの時間が経ったのだろう。茶をすする音を耳にしながら、花は首の裏が痛くなってきたのを無言でこらえていた。顔を上げて姿勢を戻せばよいのだろうが、怖くて元に戻せない。
 玄徳が孟徳をよく思っていなかったことは知っているし、直接に聞いたわけではないが、孟徳も玄徳のことは同じように思っているのだろう。というかこの場の空気でそれとわからぬほど鈍くはない。
(……どうしよう……)
 どうしたらこの状況を打破できるのだろうか。
 成都より玄徳と二人、久方振りに幼き帝への拝謁を済ませ、一段落したのちの一服を堪能していただけだったのに、なにゆえこんなことになったのか。
 花は自分の足元を眺めながらそっとため息をついた。


「……ただでさえ気に食わんことばかりだのに」
 空になった碗を卓へ抛るように置いた孟徳が、独言のようにぽつりとこぼした。
 しかし、しっかりと玄徳にも聞こえたのだろう。俯いたままの花が眼球だけを上向かせて玄徳のほうを見やると、孟徳の言葉に反応して手に力が入ったのか、袖の皺が広がり、深くなった。
「口を慎まれたら如何です、孟徳殿。――次第によっては、叛意と受け止められますが」
「帝のお気に入りだからって好い気になってると、誰ぞに足元をすくわれるぞ」
「そのような不埒な気分など持っておりません。常に気を引き締め、陛下の御心に」
「ああ、そうだった。強者に取り入るのはお前の得意技だったなぁ。逃げ足の速さといい、不器用な俺と比べられるのはさぞかし不本意だろう」
「とんでもない。私などには孟徳殿の手の早さを真似ようにも到底」
「忠告なぞしなくてもわかっているだろうが、お前が阿ってきた奴らは行きつく先が一緒だった。恭祖、本初、景升に季玉――」
「……何が仰りたいのです」
「ん? 俺に皆まで言わせたいか?」
 鋭い視線を投げかける玄徳を前に、孟徳はうっすらと酷薄な笑みを刷く。絶妙な角度に上がっている口端は、ひどく玄徳の癪に障った。
 空は晴れ渡っているというのに、なぜだか寒気がする。花はごくりと息をのんだ。この四阿の上にだけ暗雲が立ち込め、雷鳴が轟き、暴風が吹き荒れているような雰囲気だ。この身にまとわりつく嫌なものは冷や汗なのか脂汗なのか、花にはちっともわからなかった。――わかりたくなかった。
(こ、れは……竜虎なんとかっていうやつなのかな。それとも犬猿の仲? どっちが犬でどっちがお猿さん? それくらいのレベルのほうがかわいい気がする)
 花は軽く混乱している頭の中でそんなことを考えていた。
「――――ちゃん。花ちゃん。おーい、花ちゃーん?」
「はっ、はい!?」
 遠い世界に行きかけていた意識が、急激かつ強引に引き戻された。
 慌てて顔を上げると。上体を伏せて覗き込んでいた孟徳の、見たことのある無邪気な笑顔が目に映る。
「大丈夫? ちょっと顔色が悪いみたいだけど」
「い、い、え、……その、だいじょうぶ、です。たぶん」
「遠慮などすることはないぞ、花。嫌なら嫌と言ってしまえばいい。誰もお前を咎めたりしない」
「お前が遠慮をしろ莫迦が。芙蓉ちゃんといい、花ちゃんと」
「お言葉ですが、花も芙蓉も私の部下なので」
「はっ! 相変わらずお前のところには使える駒が少ないようだな。可愛い子たちをこき使って戦場へ引っ張り出すなんて、俺には考えられん。ありえない」
 孟徳が大仰に肩をすくめると、玄徳が軽く眉間に波を打つ。ぴくりとこめかみが動いたのを見て、花は玄徳が静かにも怒っているのだと感じられた。
(……ところで私に振った話の内容がわからないんですけど何を遠慮したらいいんですか玄徳さん……)
 男性二人が火花を散らし始めると、花は身体を縮こまらせて視線を下ろしていった。
 こんなときに限って誰も通りがかってくれないし、誰も助けの手を差し伸べてはくれぬ。
 時代が変わっても都会は怖いところで、田舎の人間には冷たいのかもしれない。花は盛大に嘆息しながら、がっくりと深く項垂れた。


 回廊の端から玄徳と孟徳が対面している四阿を望む文若は、深深と長嘆してから額に手を当てた。
「まったく……あの方ときたら」
「やあやあ、相変わらず仲がよろしいようで」
 背後から聞こえた暢気な調子に、文若は眉根を寄せて首を動かす。軽やかに動いた風とともに横へ現れたのは諸葛孔明だ。手にした羽扇から生じる微風に、撫でつけて整えられた髪からはみ出ているひと房がのんびりと揺れた。
 賢人だのに変人という噂は伊達ではないようである。文若にはあらゆる角度から見てもこの伏龍という存在は理解しがたかった。
「あれが良好に見えるというのなら、貴公と私は違うものを見ているようだ」
「おや、孟徳殿はその昔、玄徳様を好敵手とされ、二人で英雄を論じられたというではありませんか」
 楽しげに目を細めた孔明が四阿に向けている視線をそのままにして言うと、その横顔を眺めていた文若は、改めて庭に向き直った。その話なら小耳にとまったことがある。だが、はたして目前の状況がその時と同じであるかと問われれば、――異を唱えざるを得ない。
 玄徳と孟徳の二人は明瞭であるが、その狭間、ぼんやりとだが、小ぢんまりとしている娘の姿が確認できる。ゆえに、男二人――とりわけ孟徳が意中の娘を前にしておきながら燥がぬことなどありえぬし、彼女の目を己に向けさせるべく恰好をつけるのなら二人きりの時にするだろうので、どうせ大人げない議題で額を突き合わせているのだろうと、長らく彼のもとにいる文若ならではの解析を弾き出した。
 硬質な声音で平坦に並べ立てると、孔明は目を丸くして文若を見る。そして、やや間をおいてから羽扇で口元を隠して笑い出した。むっと文若の表情がゆがむ。
「さすが名高き荀令君。慧眼、恐れ入ります。――玄徳様もあの娘のこととなると目の色を変えられるので似た者同士ということでしょう。実に困ったものですね」
「あれは、……花は、貴公の弟子なのだろう? 助けてやらぬのか」
 文若にしてみれば、それは純粋な疑問であった。
 だが、発言直後、孔明のまとう雰囲気が変わった。ほんの一瞬ではあったが、孔明の異常なほどの冷ややかな眼差しに貫かれたような気がして、思わず身震いした。空気に呑まれて竦みあがることなどかつてなかったというのに、これはいったいどうしたことか。
 ごくりと文若が喉を鳴らしたら、孔明はあっという間に気楽な常態の顔つきに戻った。
「花がまだボクの弟子だなんてとんでもない。彼女はもうボクなんて軽軽と飛び越えていますよ。竜も鳳も凌駕した――あの娘は天の御使いだ。あれ、だなんて不敬すぎてもってのほかですよ、文若殿」
 そう言って四阿に向ける孔明の眼は、非常に澄んだもののように思えた。
 けれど、天などという、途方もない喩えに文若は顔を顰める。天意を世に示すものは天子であり、その天子はいま現在、この宮城の奥に御座す。
「――孔明殿」
「陛下は花を母と呼び、下にも置かぬ持て成しぶりと聞いております。なにゆえそのようになったのかボクは知らないんですけど、文若殿はご存じですか?」
「それは私にも理解しがたい。だが」
「今上は御身を援けた曹丞相をご自身の意思で退けられ、我らが争うことを禁じられた。現実的でなかろうと、屁理屈だろうと、事実は目の前にあり、ボクたちは陛下の御許に膝を折ったのです。漢朝の臣として、あなたはどうお思いです」
「論点を違えるな、諸葛孔明」
 いくら花が帝の寵を受けているとといえど、なんと無礼極まりないことか。――文若はおおいに怒りを膨らませ、羽扇をひらひらと舞わせている孔明に対して詰め寄ろうとした。
 だが、その刹那、文若と孔明の横を突風が過った。正体不明の疾風に二人は目を瞠るものの、次の瞬間には、事態は収束に向かうと安堵にも似た複雑な気分を味わった。


「まあ、こんなところで油を売っていたの? 探したのよ」
 階を降りて四阿へ向かう芙蓉の足取りはとてもしなやかだった。穏やかな笑みを浮かべながら四阿の入口に立つと、花をまっすぐに見つめたまま薄紅の衣を重ねるように腕を組む。それから、なにゆえこのような状況にあって彼女を救出していないのかと主たる玄徳を睨み、ちっともその気のない彼女に未だくどくしつこく言い寄っていたのかと孟徳を睥睨した。玄徳は芙蓉の無言の詰問に言い返すこともできず、そろりと目線を下げてしまうが、孟徳にいたってはまったくの無傷で莞爾として笑った。
「やあ、芙蓉ちゃん。久し振りだねえ」
「花、こちらへいらっしゃい」
 孟徳の挨拶を華麗に受け流した芙蓉は、あでやかな笑みで小さくなっている花を手招いた。
 これぞ地獄に仏! ――花は瞳を潤ませてその救援をありがたく受け、そっぽを向いて芙蓉と目を合わせられぬ玄徳の前を通って芙蓉の保護下に入ることに成功した。
「え、花ちゃんじゃなくて玄徳がいなくなればいいじゃない。それで、芙蓉ちゃんと三人で、改めてゆっくりお茶にしようよ。ね?」
 まったく悪びれず孟徳が言うと、ぴしりと何かがひび割れるような音が立った。はて何の音だろうかと花が首を傾げると同時に、傍らの芙蓉がしとやかな笑い声を発し、この場へ来てはじめて孟徳と視線をまじえた。
「そうそう、こちらへ参りますとき、孟徳殿の何人目かの奥方様の何十人目かの御子様から丁寧なご挨拶を頂戴しましたわ。父君に似ず、たいへんお心の籠ったお言葉で」
「ちょっと待った芙蓉ちゃん! 確かに今日は子建を連れてきているけどあれは五」
「何人目……何十人目……」
「花ちゃんこれは罠だ誤解だ曲解だ! 冷静になって話し合おう」
「あらいやだ、すっかり忘れるところだったわ。花、陛下のお召しであなたを探していたのに」
「え、それじゃ急がなきゃ。――あの、孟徳さん、すみませんけど失礼します」
「は、花ちゃん! ねえちょっと! 冷たくしないでお願いだから!」
 孟徳の、あまりに切実すぎる絶叫にも、踵を返した花が振り返ることはなかった。
 礼を取って四阿に背を向ける際にかなりきつい視線を向けられたので、おそらく空いた時間に説教されるだろうなと思った玄徳は、腕を伸ばしたまま固まった虚しさあふれる孟徳の姿を醒めた目で眺めやりつつ、こちらも空しさに満ちたため息をこぼした。


 一部始終を遠巻きに見ていた謀臣二人は、成り行きと結果はともかく、おかしなことにならず済んでよかったと、何とも言い難い吐息を互いに散らして解散した。
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