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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
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No.189
2012/08/28 (Tue) 00:47:32

孟花ですが、花は出ない方向で。
追加エピ絡みのような感じですが、絡まなくても丞相はこんな感じなんじゃないかなという偏見で。
ところで私、丞相を格好よく書いたことってありましたっけかね……



朝議中、孟徳は高座でずっと顔を顰めていた。議題に集中しているふうでもない様子だったけれど、対応を求めれば流暢な返答があったので、機嫌が悪いのかとも思われた。
広間に集まっている文武の衆も、孟徳の顰め面が如何なる理由によるものなのかを測りかね、冗談や揶揄などの余計を口に上らせることは一切しなかった。
「他は? ないのなら今朝はこれまでだ。――散会」
緋の袖ごと手を軽く振る。それを合図に、危うきに近づいて火の粉を被らぬようにと、出入り口に近い末席の官たちは粛粛と退室していった。
それとは逆に、孟徳の足下に近しい位置にいる高官たちは、一様に孟徳を見上げたままその場に留まっていた。どこか遠くを見つめるように、顎をつまんだままため息を吐く主君を仰ぎ見て、並み居る将軍たちは無言で元譲に視線を集めた。お前が口火を切れという静かな圧力を感じた元譲は口の中に苦苦しいものを覚えながら、正面にいる文若に目をやった。眉間に刻まれている皺の度合いは普段と変わらぬように思えるが、彼にも何か感ずるものがあったのだろう。元譲の目線を受け、文若は一度ゆっくりと目を瞑った。
文若か、あるいは元譲か。どちらが孟徳に声をかけるか交わす視線で探りあっている最中、集団の後方にいた公達は、居残っている面面を見渡した。武将としては孟徳の縁戚である曹、夏侯両氏、文官は文若に程仲徳、鐘元常、陳長文などといった顔があった。――だが、公達は目を眇めてこの場に満ちだした空気の妙にいち早く感づき、目の前にいた長文の袖をそろりとつまんだ。所用があるので先に退出する旨を小声で告げ、必要とあれば呼び戻してもらって構わぬとも言い置き、ひっそりと集団の中から抜け出した。
「……丞相」
目を細めた文若が、高座の孟徳を仰いだ。そこで孟徳が、いま初めて気づいたというように部下たちを眺めやる。
「何だ、お前ら。まだ何かあるのか?」
「それは我我が問いたく、こうしております。本日の議題の中で丞相が思い煩うことがございましたか」
「いや、別に。俺の指示に不足があったというなら聞こう」
話がかみ合わぬ。文若の眉間がひときわ強く寄ったのを見て、対面の元譲が援護に回る。
「朝議の間、ずっと悩んでいるようだったからこうして待っていた。訊きたいのは俺たちのほうだ」
「ああ、そうか――そうだったか。悪い。何でもない、……こともない、か」
ゆったりとした動作で孟徳は階を降りてくる。一番下にたどり着くと、彼らは孟徳を囲むようにして進み出た。部下の視線を一身に浴びた孟徳は、のんびりと腕を組んであらぬ方向にやった目を正面に戻す。
なかなか口を開かぬことにしびれを切らしたように、主公、と誰かがつぶやくと、孟徳は目を眇めて唇を歪めた。
「お前たちに問うのは酷かもしれん」
「覚悟など疾うに決めておりますれば、それを訊ねられるは今さらですな」
さらりとそんな声が聞こえると武将たちからは笑い声が立った。戦場に立って武具をふるうわけではない文官たちは視線を交わしあって苦笑する。孟徳はそれらの反応に軽く目を瞠ったのち、普段の調子を取り戻したかのように自信に満ちた笑みを深くした。
彼らの心構えに対してひとつ頷くことで了承を見せた孟徳は、しかしそれまでの空気を木端微塵に砕くように目尻を下げて脂下がった。頭を横に傾げ、でれんと、顔のあちこちまでもそこから落ちてしまうのではないかというほど垂れ下がる。
「いやな、どうしたら花ちゃんに我儘を言わせられるか困ってしまってな」
「…………はい?」
「俺がどんなに勧めてもまったく我儘を言ってくれないんだ。俺がいればいい、なーんて可愛いこと言ってくれちゃってさー。いつか必ず言わせてみせるって思うんだが良い方法が思いつかなくてなぁ!」
「……孟徳、お前、ずっとそんなことを考えていたというのか……!」
文若が歯を食いしばって身体を震わせ、元譲が拳を握りしめて口端を引き攣らせている。そんな中でも、孟徳は陽気な笑顔でつらつらと彼女との間に発生している悩みを語って聞かせる。
敬愛している主君の、すぐ目の前にあるそんな態度を受け入れがたく思い、ある武将はふらりとよろめき、とある文官は忙しなく目を瞬かせた。
片手では足りぬ妻妾をもつ孟徳であっても、これまでは公私の分別はつけてきた。公事を後宮へ持ち込んでいるか否かは知る術もないが、私事を政へは持ち込むことはなかった。
――だのにこれはいったいどうしたことか。
文若の顔つきが緩やかにも険しいものへと変化していく。彼の下にいる下官なれば、万雷が如き大喝が下されるに違いないと察知し、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていくことだろう。
「……丞相!」
「皆まで言うな、文若。――俺だってわかっているさ。ちっとも女の子にもてずこれっぽっちも女っ気のないお前たちに意見を求めたところで妙案など浮かぶまいよ」
「そのようなことを言いたいのではありません!」
「益州や漢中、江南のことでお悩みだったのではないのですか!?」
「主公!」
「今のところ、玄徳や仲謀のことで頭抱えるようなことはないしなぁ」
皆に勘違いをさせたことをまったく反省する素振りなぞ見せず、孟徳は顎をさすりながらあさってに目を向けてから、怒って詰め寄ってくる部下たちを眺めまわした。
「わかったわかった、女の子と縁が薄すぎるどころか皆無だからって幸福を満喫している俺に八つ当たりするなよ。――仲立ちとかしてやるから暑苦しい顔を引かせろ」
「だっ、誰が八つ当たりなぞするものか!」
「そういうことを申し上げているわけでは……!」
孟徳の考えるところと、部下の思うところのすれ違いがはなはだしい。
激しく顔をゆがませて主君に食いかかっている文若や元譲を後方から見守り、掛ける言葉も見つからず、またこのありさまでは諌言も空しくなりそうだと、切ない吐息をこぼしていた仲徳は、武将たちの一番後ろにいて、文字通り頭を抱えて座り込んでいる妙才を発見した。彼の側で片膝をついて声をかけると、妙才は派手に頭髪をかき混ぜてから顔を覆った。
「お、俺さ、主公はもちろん、花殿のことも好きで、お2人が仲良くしているところも、見るのは嫌じゃないけどさ、……こういう嫌がらせは主公でもやったらだめなんじゃねえの……!?」
丸めた身体と絞り出した声を震わせる同僚を慰めることもできず、仲徳はぽんぽんと妙才の肩をたたき、頭を撫でてやることくらいしかできない。
騒がしさの絶える空気が感じられぬ中、仲徳は最初からこれと見越して残留しなかった賈文和や、それと気づいて退出した公達を恨めしくもうらやましいと思い、ごうごうたる非難の隙間にため息を落とした。

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