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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
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No.154
2011/12/12 (Mon) 01:29:49

都督と花とその息子。

出涸らしネタかと思われます。いったい何十杯目かは想像つきませんが。
都督ならこれくらいのことやってくれそう、という感じで。笑



今日は早くに帰ることができた。白い息を闇夜に見ながら、公瑾は微笑を浮かべる。
馬からひらりと降りた彼は、門で待ち受けていた家人に手綱を渡し、厚手の外套を翻しながら邸に入った。入り口で額づいていた侍女に外した外套を渡し、出迎えた家令に対して報告を求めようとしたところで、奥の方からぱたぱたと賑やかな足音が聞こえてくる。家令はまったくの平静であったが、公瑾は眉をひそめながらも苦笑した。
そして現れた姿にため息をついてみせる。
「おかえりなさい、公瑾さん」
「ただいま戻りました。……まったく、何度言っても直らないのですね。母たるものが嘆かわしい」
「え、あ、ごめんなさい」
花はそう言い、小さな笑みをたたえて頭を下げた。彼女の態度に、公瑾は目をすがめる。いつもならば、注意をすれば項垂れて反省の色を見せるものだが、今日の彼女は何やらひと味違って見える。にこにことした顔を見下ろしながら、公瑾は彼女の繊手を取って自身の腕にかけさせた。
2人は肩を並べ、ゆったりとした歩調で居室へ向かう。
「それで、何があったのです?」
「え? わかります?」
「無自覚とは質が悪い。その緩みきった顔を見れば誰でもわかります」
そんなにわかりやすい顔をしていただろうか。公瑾の指摘を受けて、花は空いていた手を赤くなった頬に当てた。
「だって、すごく嬉しかったんです。昼間からずっと止まらなくて」
仲良くそろって居室へ足を踏み入れると、小さな影が公瑾の足にぶつかった。
「父上、おかえりなさい!」
「起きていたのか」
「今日はお出迎えをするんだって張り切っていたんです。お昼寝もたくさんして」
裾を握っていた小さな手をほぐし、そのまま脇をつかんで軽軽と身体を持ち上げた。息子の突き抜けたような朗らかな笑顔に思わず頬が緩む。
父親にそっくりだと花や侍女は言うが、中身は母親をそっくり移したように思えてならぬ。これがこのまま成長して家督を継ぐのかと先の先を考えてしまうと、少しばかりの不安があった。花に言ったら怒るだろうので胸の内に留めてはいるけれど。
用意された酒杯を傾けながら、目前の息子と隣の妻の、あまりにも似通いすぎる笑顔に公瑾は呆れて嘆息した。
「いつまでも笑っていないで、早く言いなさい」
「別に聞きたくないならけっこうですけど」
「私に訊いてほしいから寝つかせもせずに待っていたのでしょう? ありがたく拝聴しますから、どうぞ遠慮なく」
飲み干した杯を膳に戻し、公瑾は嫣然として肘掛けに重心を移した。その態度に花はぷくりと頬を膨らませたが、目を輝かせている息子を見やったあとで、これは諫めても直らないだろうと諦めて眉尻を下げた。
いくら様になっている姿態とはいえ、けして息子に真似てほしくない。あとでこれは悪いことだと教えようと密かに決める。
夫の、嫌味すぎるほど美しい笑みにため息を送った花は、言っていいよという合図で息子に頷いた。彼はいっそう笑みを明るくさせて身を乗り出した。
「わたしが母上をつまにして、父上のかわりに、めんどうをみます! ですから、父上は、こころおきなく、おつとめにはげまれて、ください!」
舌足らずなしゃべりかたではあったが、己の言いたいことを言った嫡男は興奮に顔を紅潮させた。長く邸に居着くことのできぬ忙しい父のために一生懸命に考えたことだった。
これを言った昼間には、母は嬉しいと抱きしめてくれ、侍女はさすがあの父の子と言ってくれた。
さてその父は、そんなことは当然だと、やはり普段通りに厳しいのだろうかと思ったが、周家期待の継嗣は期待を込めた眼差しで台座にある主を見つめつづけた。
「……公瑾さん?」
ぴくりとも動かなくなった夫を、花は手にしていた小さな酒瓶を床に下ろしてのぞき込んだ。秀麗な顔が曇っていることに訝って眉根を寄せる。
鋭くとがった双眸は、己が血を引く息子を見るに相応しいとは思えない。ややあってから、公瑾は肘掛けから離れて背筋を正した。
「循。そこに座りなさい」
「……え、えと……?」
父に言われずともとうに座っている。ひどく冷たい声で命じられ、困惑に揺れる幼い視線は、母に助けを求めて漂った。花はすぐさま公瑾を睨む。
彼女が諫めの言葉を紡ぐ前に、公瑾はそれを手で制した。
「循。お前はこの父と母の血を分けて生まれた。母の郷里は遠く、もちろん父と血の繋がりはない。――私の言う意味がわかるか」
「……あ、あの、公瑾さん。いったい何を」
「あなたは黙っていらっしゃい。……お前は蛮夷の地に産み捨てられ、二親の顔を知らぬわけではない。父も母も目の前にいて血脈も明白。この周公瑾が嫡子であるのに、母と契りたいなどと人倫にもとる行為を嬉嬉として告白するなど恥を知れ」
「こ――公瑾さんっ!」
怒声を発した花はすっくと立ち上がって息子に駆け寄った。先刻までとは違った意味で顔を真っ赤にしていた息子は、母親に抱きしめられ、ついには泣き声をあげる。
「バカなことを言ってこの子をいじめないでください! それでも父親ですか!」
花の抗議に、けれども公瑾はむっと顔を顰めて反論した。
胸に顔を埋めて泣きじゃくる息子と、小娘のように癇癪を起こした妻を、公瑾は同時にねめつけた。身体を倒し、再び肘掛けに体重をかけてため息をつく。
「馬鹿はあなたでしょう。我が子が道を踏み外そうとしているのに、なにゆえ正そうとしないのか」
「バカなのは公瑾さんのほうです! 大きくなればそんなことくらいわかります! 私だって小さい頃はお父さんのお嫁さんになるって言ってましたもん!」
頭や背を撫で、泣き止まぬ息子を慰める姿は母親そのものだ。すっかり機嫌を悪くして人相まで悪くしている公瑾を故意に視界から外し、身体揺らして息子をあやす。
「お父さまはとっても頭がいいのに、ときどきすごくおバカさんになってしまうのよ。困ったねー」
「……花」
「今日はお母さんと2人で寝ようか。久しぶりにお話してあげる。何がいいかなぁ」
「待ちなさい! まだ話は」
「話すことなんてこれ以上ありませんけど」
いっそ冷徹な瞳で公瑾を一瞥した花は、息子を抱えたまま居室を出ていく。
邸には滅多に響かぬ大声を聞いて駆けつけた家令に後のことを頼むと、妻と子は何の未練もないとばかりに居室から立ち去った。
それを見送った家令は、そろりと室内に視線を移す。些細なことからはじまる夫妻の揉め事に関与できる立場ではないため、台座の上で唖然としたまま身動きしなくなった主を見つけ、是非もないと首を振った。
用聞きのため部屋近くに控え、一部始終を耳にしていたらしい花付きの侍女は、居室から顔を逸らし、袖の陰でくつくつと笑っている。渋い表情の家令は侍女を小声でたしなめた

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