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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/11/28 (Thu) 03:21:08

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No.152
2011/12/01 (Thu) 01:24:06

あヴぁるす見てから玄花読みたいなー書きたいなーと思ったので。

PSPに入る後日談が楽しみでなりません。
来年のいつくらいに発売されるんだろうと今からそわそわそわそわ。
雲長さんの後日談はどうなるんだろう。そわそわ!



日当たりの良い、城の東の庭木を見上げて、花と男児が困っていた。視線の先の梢には、竹で作った遊具が引っ掛かっている。
花だけでは届かず、その子を抱え上げても高さは足りない。登るにしても枝が細いので、花はもちろん、その男児でも折れてしまおう。
そうして途方に暮れていると、孔明を従えて通りかかった玄徳が庭に降りて声をかけてきた。
花が斯く斯くと説明して梢を指さすと、先刻まで2人がしていたように、玄徳と孔明も揃って天を仰いだ。なるほど、と孔明がうなずく。
「何か棒でも持ってこさせましょうか」
「いや、いい。――花」
淡い青が基色の質素な衣を纏う若い妻を振り返る。夫婦になって幾月か経っているのに、未だ幼さを残したままの少女は、わずかに首を傾いで玄徳を見返した。
「俺が抱えるから、取ってくれ」
「……えっ」
「大人2人なら届くだろう」
言うや否や、玄徳は裳の余分を花の足に巻きつけ、膝裏に腕を回して彼女を持ち上げる。勢いを付け、花の尻を肩に置きながら自身も立ち上がった。
突然の浮遊感に慌てた花は、短い悲鳴を放って玄徳の頭にしがみつく。
「げ、玄徳さんっ!」
「大丈夫、お前を落とすことは絶対ない。届くか?」
腿をしっかり抑え、玄徳が苦笑混じりで問うた。
眼下に玄徳を見、慣れぬ景色と不安で混乱していた花だったが、己を抱えても揺るがぬ逞しさと、消沈したままの男児の姿を見とめて、そろそろと曲げていた上半身を正し、腕を梢に向かって伸ばした。
 
花が教え、玄徳が作った竹とんぼを手にした子らが、賑やかな声を響かせている。
回廊近くからその小さな平穏に目を細めている玄徳の傍らで、花は俯いて地を見つめていた。
「どうした?」
そう言って玄徳が顔を覗き込むと、花はさらに身体をよじって彼の視線を逃れた。
「すまん。怖かったか」
「……怖くは、なかったです」
「ではどうして怒っている」
「怒ってません」
「ならばなぜ目を合わせてくれないんだ」
玄徳は上体を屈めたまま、花は明後日の方向に顔を背けたままで問答を繰り返す。その様子を、夫妻より距離を置いたところから見やる孔明は、羽扇の影でため息をこぼしていた。
長いたっぷりした袖の中で指先をもじもじさせている花は、そろりと目線だけを玄徳にやった。やさしい笑みを見て、おそるおそる口を開く。
「いきなりだったから、びっくりしただけです」
「他には?」
「……お、……重く、なかったですか……」
可能な限り落とした頭の影から、か細い声がした。丸くした目をぱちりと瞬かせた玄徳は、耳や首筋までを赤くしている花を見下ろして表情をほころばせる。
女人ならではの悩みといったところか。玄徳は笑み崩れた顔を晒したまま、再び身を屈めて花を抱き上げた。
頬を朱色に染め、涙目になっていた花は、普段と変わりない笑顔の玄徳をにらんだ。
「玄徳さん!」
「重いか否かで答えるのなら、もちろん重い。――お前の生命を持っているのだから当然だろう。軽くては困る」
「い、のち……?」
「そうだ。城へ遊びに来ているあの子らも、俺に付いてきてくれている民や将兵らも同様だが、俺個人にとっては、お前が格段に重い」
しっかりと瞳を見つめて玄徳は言う。浮かんだ笑みが普段より頼もしく、そしてやさしく見えた。
花は緩やかに顔を歪め、大粒の涙をこぼして玄徳の首に縋りつく。
己のことを後回しにして多くのことを抱き、民の幸福を思っているひとに比べ、自分のことばかり考えていたことがとても恥ずかしく思えた。
ごめんなさいと震える声で花がこぼす。両手のふさがっていた玄徳は、いとおしそうに頬をすりよせた。
「俺の配慮が足りなかった。……すまなかった」
花を降ろして抱きしめる。腕の中に納まった彼女は、玄徳の言葉にかすかに首を振って応えた。小さく鳴った簪の飾りを宥めるように、玄徳は結った髪の流れに沿って頭を撫ぜた。
「荊州にいた頃、余分な肉がついて困ったことがあったな。……雲長に渋い顔をされたものだ」
「玄徳さんが……?」
「ああ。まあ、俺の場合は怠惰な生活を送っていたのだから自業自得なんだが。――食事はちゃんと三度摂っているか? お前は細いから心配だ。食うに困らせているようで不安になる」
「そんなこと、ないです。食べてます。……食べます」
潤んだ瞳で見上げてくる花に、玄徳はひと際やさしい微笑で見返した。背を擦り、濡れた頬を撫ぜる手からは、彼のいたわりしか感じられなかった。
片方だけだった頬のぬくもりが両方になる。大きな掌に挟まれ、やさしく促されるままに目線を上げたら、深い慈しみをたたえた玄徳の双眸にぶつかった。自然と笑みが浮かんでしまう。
無言のまま見つめあい、ややあってから瞼を下ろしかけた――そのときだった。
わざとらしい咳を背後に聞いて、屈みかけていた玄徳の動きが止まる。
「ご夫妻の仲睦まじきことは美しく、臣にとっても喜ばしきことですが、時と場所を是非ご考慮いただきたく」
目の毒です。固まった2人を見てから、孔明は羽扇をひらめかせて子らを示した。玄徳が肩越しに振り返ったなら、賑やかな声をあげて遊んでいた子が皆、手を止めて声を沈め、玄徳と花を眺めているではないか。
「そういったことは、2人きりになってからのほうが好ましいと愚考しますれば、わが君におかれましては」
「わかった。わかったから、それ以上は言ってくれるな、孔明」
玄徳がこの上なく顔つきを歪める。それと相対して孔明は朗らかに表情をほころばせた。猫か狐かと言わんばかりに細められた目に晒されて、玄徳は渋渋と恥じらいに身動きの取れなくなった花から手を離す。
良いところを邪魔されたのは癪だが、執務中であるのに2人の時間を設けてくれたことには感謝せねばなるまい。
華奢な肩を軽く叩いて、玄徳は花から離れる。しかし、背を向け合って数歩、回廊を進みだした孔明に続くよう階を登る寸前になってから、彼はくるりと方向転換をした。花の名を呼び、簪が曲がっていると言って腕を伸ばす。
「す、すみま――」
髪を撫でてすぐさまに降った口づけ。とん、と、ただ触れるだけの不意打ち。
何が起きたのか理解できなかった花は、けれども瞬く間に顔を真っ赤にさせて声をあげかけた。が、それは玄徳の人さし指によって止められた。
「夕飯は一緒に食べよう。楽しみにしている」
花の唇に置かれていた指先で己の口を撫でながら、玄徳は颯爽と身を翻し、今度こそ孔明の後を追う。悪戯な輝きを放っていた彼の眼が忘れられず、花はしばらく自失してその場に立ち尽くした。


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