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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/11/24 (Sun) 12:44:43

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No.82
2010/12/25 (Sat) 23:53:08

メリークリスマス!(でした……)
たまには季節イベントに乗っかってみようかと思いました。こんなギリギリでよくもそんなことが言えたものだと自分でも思います……。
たぶん、これが今年最後の書き物更新になるのではと思われます。

拍手、ありがとうございました! さ、サンタさんがいるよー!




やけにはじけた笑顔だったと、ふと思う。
執務室で公瑾は、文机に肘をついてあらぬ方向を眺めたまま、今朝の花の笑みを思い返した。
普段ならもう少し落ち着いている。常に隠すことを知らぬかのように心情を顕にしているが、今日はそれとはまた違った印象を受けた。
隠していることがあるのだと手に取るようにわかってしまう彼女の態度。知れず公瑾の薄い唇が奇妙に歪んだ。幼子さながらの稚さは愚かしくもいとおしい。
これは執務が圧しても今日中に邸へ帰ることが重要であろう。そう考えた公瑾は、早速とばかりに小山の竹簡を崩しに取り掛かり、日付を跨ぐか否かの頃合いに自邸の門をくぐることに成功した。
「お帰りなさい、公瑾さん。お仕事、お疲れ様でした」
「只今帰りました。起きてらしたのですか」
「はい!」
外套を受け取りながら、花は満面の笑みで公瑾を見上げた。
侍女との二人三脚で公瑾の着替えを手伝い終えると、ひと息をついて落ち着く暇すら与えず強く手を引いて部屋を出た。しっかりと合わせられた彼女の手の温かさに思わず笑みがこぼれてしまう。感情がこれほど簡単に表へこぼれてしまうのは、ひとえに彼女の影響を間近に受けてきた所為なのだろう。歓迎すべからざることだが、それを良しとしてしまえる部分があることは否めない。前を往く花の背中を眺めて公瑾は苦笑した。
連れていかれた居室には膳の用意がしてあった。全開にした扉から眺められる庭先の、欄干近くに植わっていた1本の低木が賑やかに飾られている。花はやや興奮気味に公瑾を振り返ってそれを指差した。
「クリスマスツリーに見立ててみました。ちょっと低すぎるツリーですけど」
「ああ――あちらの風習の」
彼女の故郷にもともとあった行事ではないというので詳細を訊ねたのだが得ている知識は曖昧らしく、自信のなさそうな小声で説明をする間、あちらこちらと視線を泳がせていたことを思い出す。これまでにも彼女の世界にあった不思議な風習を数点挙げ、節操なしに、手当たり次第に騒ぐきっかけを集めているのかと問うたら揚げ足ばかり取るなと拗ねられたことも記憶に新しい。
にこにこと笑って反応を待っている花に、公瑾は苦く笑うことしか出来なかった。
「困ったひとですね。読み書きもこれくらい熱心になってくださればよろしいものを」
「一生懸命やってます。……だいたい、公瑾さんの宿題は難しすぎるんです」
「伏龍の弟子ともあろう方があの程度で音を上げるのですか?」
「こういうときばっかり師匠の名前を出すなんて卑怯です!」
「揶揄されるようなことをなさるあなたが悪い」
言い争う2人の背後で、酒と軽食の用意を粛粛と整えていた侍人らが頭を垂れて去るのを見遣った公瑾は、自らの上衣を広げて花を覆い、その上から膨れ面の彼女の肩を抱き寄せた。火鉢も準備されているが、冷気が自由に漂うこの場では意味をなさぬ。
「……だって」
俯いた花を黙って見下ろす公瑾は次の言葉を待つ。
「……だって、す、好きなひととクリスマスを過ごすなんてしたことなかったから、一度はしてみたいなって……思って……」
どうせまた幼稚だと笑われるのだろうけれど、若くして要職に就いている彼とはデートすらままならないのだから、せめて家で出来ることをしてみてもいいではないか。桜色の唇を少しだけ尖らせた花は、赤らめた頬を隠すようにそっぽを向いてしまう。
見下ろす彼女の発言に軽く目を見張った公瑾は、やや間を置いてから喜色に目を細めた。
こうして彼女は、帰れなくなってしまった郷里の記憶を哀しみとともに封じることなく、幸福の欠片として分け与えてくれる。寂しさを振り返るでなく、楽しさとして共有しようとしてくれるそのこころは何よりも尊いと思えた。
空いていた腕を回してそろりと花を抱きしめる。耳元に唇を寄せ、わずかに身体を強ばらせたことに薄く笑った。
「そういう意味のある催事なれば、期待に応えねばなりませんね」
花が恥じらって徐々に肌を染めていく様を眺めながら、公瑾は腕に力をさらにこめて深く抱き込んだ。いつになっても触れあいに慣れることなく、初々しく、みずみずしさを失わぬままに咲き誇る花。この手の内にあって尚その姿を損なわぬとなれば冥利に尽きよう。
熱くなっている頬に唇を掠めてから上体を起こし、花の肩を引いた公瑾が身を返した。
「扉を閉じましょうか。少し風が出てきた」
「あ、ちょっと待ってください」
公瑾の腕の中から飛び出した花はまっしぐらに低木へと向かう。欄干の隙間から手を伸べて飾りのひとつを取り上げると、また公瑾の元へ舞い戻ってきた。そして自らの握る鬱金色の物体を、首を傾いだ公瑾に見せる。
「ええと、ですね。このツリーの星は、星、は……」
言葉を断ち、見上げていた顔をゆっくりと伏せていった花は、ついに眉根を寄せて沈黙した。
星の下だっけ? 取ったひとだったっけ? ――口元に当てた袖の向こうからはそんな彼女のつぶやきがこぼれてきた。
「花?」
「と、とりあえず! 公瑾さんのお願いごとをこの星にお願いしてください!」
「……願いごと、ですか」
「ツリーの下だったか、ツリーから星を取ったひとだったかは忘れてしまったんですけど、確かそんな話があったように思うんです。だから、その――」
「七夕や何かと混同しているのでは? いちいちに他力本願なのは如何なものかと」
「もう! 公瑾さんってば、全然ロマンチックじゃないんだから!」
飾りを公瑾に押し付け、先ほどまで赤らめていた頬を膨らませて花は怒った。言葉の意味はわからないが、彼女の意向から外れてしまっていることは確かなようだ。彼女を喜ばせたかったのに、勘気に触れるような細部を突いてしまう悪い癖が、こういう場にあっては少々恨めしい。公瑾はささやかに困惑したが、苦く笑ってから胸に当てられた飾りごと彼女の手を軽く握った。
「さて、何を願えば良いのでしょう」
「クリスマスのシチュエーションに限定しなくてもいいと思います。たとえば、――戦争が早く終わりますようにとか、みんなが仲良くなれますようにとか」
「……今少し情緒的な喩えがほしいところですね」
公瑾がわざとらしくため息をついてみせると、状況に見合わぬ反論に対して腹を立てたばかりの花が瞬時に顔を強張らせた。自らの失態に気づき、ぎこちない笑みを浮かべた彼女を見て、公瑾は思わず声を出して笑ってしまう。
怒りか羞恥か、顔を真っ赤にさせた花が反射的に手を引いたが、公瑾は逆にそれを強く握りとめ、さらに腕を回して細腰をさらった。それから両腕で彼女を抱きしめる。
「ひとつ、願い事を思い出しました。……あなたにご協力いただきたいのですが」
やさしい抱擁の内にある花は、耳元に聞こえる彼の心音と頭上からのささやきとに挟まれて顔から火が出そうな気分だった。かすかな頬ずりを受けながらも彼女は肯定の意として小さく頭を上下させる。
そろりと首を伸ばしてかすかな声で告げた公瑾の願いに、花は全身が茹だったように感じた。まるで高熱を発したときのように力が入らない。
わずかに身を離し、極上の笑みを浮かべた公瑾が返答を求めるように花の顔を覗く。
「さすがに私ひとりではどうにも出来ませんから」
花はへにゃりと笑み崩れた自身の顔が公瑾の透った瞳に映されているのを見てとったが、すぐに彼からの口づけを受けて瞼を落とした。
――生涯を共に歩むということは、そういうことだ。
公瑾の願いが果たされる日は自らも彼と将来を誓った幸福を噛み締める日になるのだろう。花は彼の腕の中でゆっくり扉が閉じられていくところ、宵闇に雪が降り出したのを見た気がした。

 

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