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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/11/24 (Sun) 12:53:20

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No.8
2010/05/27 (Thu) 00:19:17

王道は大好物です。
ということで、お題拝借。
お題をがんばりつつ、他の妄想も形にしていけたらいいなあと夢見ガチ子な現状です。
コンパクトに……コンパクトに……! 精進しろ。

拍手、ありがとうございました! 勝手に励みにさせていただきます!
あ、あの、もしリクエストとかあったら………………いえ、寝言をほざくのは寝てからにします。寝不足はいけませんねおやすみなさい。



違和感を覚えたのは昨夜。かすかな痛みは、けれど一晩休めば消えるものだと高を括っていたのが仇になったようだ。自室で書簡を広げて目を通すも、手は無意識に喉に触れる。痛みがあるのは気にかかるが、北の脅威がある内はわずかな時間も無駄に出来ぬ。
「公瑾さん、いますか? 花です」
「……どうぞ」
躊躇をしてから応える。今はあまり近くに寄ってほしくないのだけれど、理由を述べたところで単純に頷いてくれる相手ではない。素直な外見に反して意外に頑固だ。変調を悟られぬよう指先に力を込め、喉に刺激を与えながら入室してきた彼女に問う。
「どうかなさいましたか」
「子敬さんから預かりものがあるんですけど、執務室にいなかったので」
「それはすみませんでした」
苦笑して公瑾は立ち上がり、彼女から書簡を受け取った。その場で紐解き中身を確認する。今日の朝議で上奏された案件の草稿だった。しっかりとまとめられた内容に満足すると、広げていたそれを丸めて再び彼女の手に渡した。
「申し訳ありませんが、今一度、これを子敬殿へ届けていただけますか? 諾と言伝を一緒に……花殿?」
「あ、はい、わかりました」
小首を傾いだ花に、公瑾が首を傾げる。生まれた世界を異にする彼女には、ここでの「普通」がときどき思考の範疇から外れることがあるらしいのだが、何か彼女の理解に及ばぬことでもあったろうか。
じっと視線を彼女の手元に定めていると、それに気づいた彼女は表情をやわらかく綻ばせる。不意にこころを欲する瞬間。
「――お茶でも飲んでいかれませんか? あなたに時間の余裕があれば、ですが」
「はい! あ、公瑾さんは甘いものって食べますか? 昨日、尚香さんにもらったお菓子があるんですけど、一緒にいただきませんか?」
「尚香様はあなたにくださったのでしょう?」
「2人で食べても尚香さんは怒らないと思います。いま持ってきますね」
小走りで部屋を出ていった彼女を笑いながら見送り、公瑾は閉じられた扉を改めて開けた。閉め切っていたので乾燥しているかもしれないし、少しでも空気の入れ換えをしておけば彼女へうつる可能性も低くなるだろう。茶器を整えながら自嘲する。彼女のことを考えるのなら、離れていてもらった方がよほど良いだろうに。
こうまでしても、わずかな時間でさえともに在りたいと願うほど、いつの間に囚われてしまったのか。
頃合いを見計らって湯を入れる。立ち上る湯気が心地よい。
慣れた手つきで準備を完了するが、彼女は戻ってこなかった。ここと彼女の部屋ならこれほど時間がかかることもないだろうに。誰かに捕まって話し込んででもいるのだろうか。
訝って扉を見たそのとき、うっすらと人影が入り込んだ。
待ちかねた姿に、知らずうちに表情が緩む。けれど、次の瞬間には目を瞬かせて彼女の持ってきたものを凝視した。
「……菓子を取りにいったはずでは?」
花が手にしていた盆には3つの杯が乗っていた。疑問を投げつつ席を勧めると、彼女は菓子の入った小さな箱と一緒にそれらを公瑾の前に並べる。
「これが緑茶、これが生姜湯、これが薬湯です。風邪は引き始めが肝心ですよ」
ひとつずつ指さしながら施される説明を黙って眺めていると、彼女は呆けている公瑾に微笑んだ。脳裏で謀った末のことでなく、己の目で見たことをそのままに写し、彼女はいつでもまっすぐに真実を射抜く。無邪気な笑みはとても賢人の弟子には見えない。
「いつもと少し声が違ったし、喉を押さえていたから痛いのかなと思ったんです。……余計なお世話だったらすみません」
腰掛けてから頭を下げる花。その様子に呆れるべきか笑うべきか迷った。
「……あなたには敵いませんね。この程度のことを見破られるとは、私もまだまだ甘いようだ」
「私だけじゃなくて、きっと他のひともわかると思います。公瑾さんの声はきれいだから」
「男性の声に対する評価として、その表現は複雑に思うのですが」
「そうですか? でも私はきれいって思ったんです。歌っているときも、話しているときも、公瑾さんの声は透ってきれいで、好きだなって」
「お褒めに預かって恐縮ですが、……好かれているのが声だけだとは終ぞ知りませんでした。これからは障屏を経てお逢いすることにしましょうか」
「ち、違います、そうじゃありません! 私は声だけじゃなくて公瑾さんの全部が好きなんです! か、ら……そういう意地悪を言わないでください……」
真っ赤になって薫り高い茶を口にする花を目にして笑った。
こころの弱い部分をやさしくやわらかく包み込む無意識。己を保つために必要な部分を、彼女は自らも知らぬうちに補ってくれる。――だから手放せない。どんなときであっても。
公瑾は彼女が持ってきたものを端からゆっくり含み、先ほど彼女から受けたそれぞれの説明をさらに詳細に砕いた内容を彼女に教えた。書物などで得た知識を披露しているだけなのに、唇を尖らせて機嫌を悪くしていた彼女はたちまち感心して感嘆の声をあげる。言葉の遣り取りは長らく続けられたが、喉を湿らせながらの会話だったので痛みは感じなかった。
無理はしないでほしいという申し出を諒解し、それでもわずかに訝る彼女を送り出した。
後ろ髪を引かれる想いはきっと同じ。
数歩回廊を進んでは振り返る花に笑み続け、姿が消えても彼女が去った方角を見つめ続けた。

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