これで7本目かな。あと3本残っていますが、また時間かかりそう。
ピュアップルはこころの穢れた人間には難しいということでしょうか。うんそうだろうな。汚れまくってるがな。もう手の施しようがないくらい。ああもうキャラ違って済みません……
拍手、ありがとうございました! 活力になります!
視界に入れなければ済むだけの話。しかし一度たりとて目にしてしまっては、気にならぬはずはない。
調練の最中、城内の奥の方角を眺めやってはその場をうろうろと行き来している義弟に、雲長は重いため息をついた。
「……翼徳」
低い声音に大きな身体がびくりと反応する。身を返して義兄に目をやれば、彼は視線を冷たく尖らせていた。――怒ってる。翼徳は眉尻を下げて雲長に向かい合った。
「だって、花がすっごく苦しがってたんだ。顔を真っ赤にしてさ。雲長兄いは心配じゃないの?」
「ただの風邪だったんだろう? 今日は芙蓉姫が傍についているというし、お前が行っても邪魔にされて追い出されるだけだ」
冷たい物言いに唸るも、翼徳は諦めきれずに女性の住まいとなっている奥の離れに視線を転じた。
「今日は付ききりでいられるから、何でも言ってちょうだい」
「ありがとう。ごめんね、芙蓉姫だってやることいっぱいあるのに」
「病人はおとなしく甘やかされていればいいのよ」
花の寝ている寝台のすぐ側で、器用に桃の皮をむきつつ芙蓉が笑った。甘い匂いが部屋に満ちる。小皿に切り分けて竹串を刺したものを整えると、花が起き上がるのを手伝った。薄い夜着すらも熱を持っているように感じられて、芙蓉は花の背の陰で密かに眉根を寄せる。
「いい匂い。おいしそう」
火照る頬を緩ませて、さっそく一切れを含んだ。熟れた果実は噛まなくても口の中で崩れていく。芙蓉が見守る中、花は時間をかけて桃を平らげた。
片づけを侍女に任せ、芙蓉は先に述べた通り、花に付ききりで世話を焼いた。額に乗せた手拭をこまめに替え、水を飲ませ、上掛けを直し、話し相手になる。まるでお母さんみたいだと花が感想を述べると、芙蓉はせめて姉にしてちょうだいと苦笑した。
口数が減り、花がうとうととしだした頃、遠くから大きな音が響いてきた。それが近づいてくるにつれて芙蓉の口端の引き攣り具合が大きくなる。そして――
「花!」
大きな音を立てて扉が開かれ、開口一番に名前を呼ばれた花は驚いたように目を開いた。びくりと身体が跳ねて濡れた手拭がぽとりと落ちる。
「翼徳殿! 女人の、それも病人の部屋へ断りもなく入ってきてそんな大声を出すなんて!」
「ごご、ゴメン芙蓉。それより花は?!」
「……翼徳さん? お見舞に来てくれたんですか?」
「あなたも少しは怒りなさい! ――翼徳殿は調練の最中でしょう!?」
芙蓉は眉を吊り上げながらも、起き上がろうと肘を突いた花の手助けをする。怒声を浴びて肩を落とした翼徳は、眉尻を下げた情けない表情で寝台に近づいたが、熱に惚けた花の小さな頬笑みを見てぱっと顔つきを転じさせた。
「もう起きても平気? まだ辛い? 苦しい?」
「まだ熱はあるけど大丈夫です」
「翼徳殿! 花!」
今度は二人で肩をすぼめた。腰に手をあてて怒っている様は、やはりどうしても母親にしか見えない。花がこっそりそう思っていると、芙蓉は視線をさらにきつくして翼徳と病人を睨みつけた。
「花は芙蓉と違って、か弱い女の子なんだぞ?」
「――そう。ちょっと表へ出ていただけるかしら、翼徳殿……?」
「あ、あー、あー、何だかご飯が食べたくなっちゃったなー! それともお粥とお漬物がいいのかなー! どうしようかなー!」
剣呑な空気を纏いだした芙蓉から目を逸らし、花は突如として声を張り上げた。無理を押して掠れた声にも、そんなに腹が減ったのかと無邪気に問う翼徳へ芙蓉は目を眇めたが、困った顔つきでちらちらと視線を寄越す病人の意思を尊重して怒気を抑えた。
軽く頭痛を覚えたように額を押さえて芙蓉は扉に向かい、戻ってくるまでですからね、と不穏な声音で告げてから部屋を出て行った。
何がと首を傾げる翼徳の前で、花は大きく息をついて胸を撫で下ろす。
「翼徳さん。お見舞に来てくれるのは嬉しいですけど、お仕事はサボっちゃ駄目ですよ?」
「……ごめん。でも、本当に心配だったんだ。花が苦しがってても代わってやれないし……」
しゅんとして項垂れ、大きな身体を丸めた翼徳が上目遣いで花を見る。まるで幼子のような態や、自身の体調不良を慮って見舞いに来てくれていることもあってか、花もあまり強くは出られない。
しかし。花は小さくため息をついた。
「昨日もお仕事の途中で抜け出して、玄徳さんと師匠に怒られましたよね? 雲長さんも怒っていませんでしたか?」
そう訊ねると、翼徳は言葉に詰まってさらに縮こまっていく。
「皆が怒るのは、翼徳さんのことを思って怒るんです。翼徳さんのことが好きだから。そうじゃなきゃ、誰も何も言ってくれません。――だから私も、怒ります」
顔を見られないのは淋しい。けれど、花にばかり感けて彼が大切なことを放り出してしまうのは哀しい。
泣き出す一歩手前の表情の翼徳を前に、花は敢えて厳しい顔をつくる。
「翼徳さんがお仕事をしないと、困るひとがたくさんいるんです。やるべきことをやらないでお見舞に来てもらっても、私は全然嬉しくありません」
「はなぁ……」
「……それに、お仕事に戻ってから怒られているんじゃないかって、翼徳さんのことが心配になって、私が元気になるの、遅くなっちゃいます」
目を潤ませる翼徳の頬を撫でた花は、ゆっくりと視線を絡ませてから微笑んでみせた。ぐすりと鼻をすする彼へ側机にあった手巾を手渡しがてら、大きいあたたかな手をやさしく包む。
「お仕事に戻ってください。それで、晩ご飯は一緒に食べましょう? 私も早く翼徳さんのお手伝いが出来るように元気になりますから。……ね?」
花の言葉にこくりと頷いた翼徳は、渡された手巾を使わずにこぼれだした涙を袖で拭う。
幼い仕種に思わず笑ってしまった花は彼の手に指を絡め、驚いて丸くなった目を見やってから身体を伸ばして軽く唇を啄ばんだ。
「翼徳さん、怒られてないかな? 大丈夫かな?」
「雲長には言っておいたから、あなたは気にしなくていいわよ」
「でも雲長さんって容赦ないから心配で……。も、もちろん命に関わることだから厳しくしないと駄目なんだろうけど」
「いいから黙って寝てなさい!」
ともすれば起き上がって庭を覗き込もうとする花を布団へ押し込む芙蓉は、そわそわしてちっともおとなしくならない病人にため息をついた。