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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/11/24 (Sun) 12:33:43

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No.42
2010/08/24 (Tue) 01:13:44

お待たせしましたと胸を張って言える気がしな以下略。

花孔明です。VS丞相。
なかなか2人がどうにもなってくれなかったので、非常に時間がかかったような気がしています。……いえ、気じゃなくてかかってるんですけどね実際……。いったい何本駄目にしたんだか数えるのが恐ろしい。
今度こそ焼き鏝だと思ってる。本気で思ってます。
どうぞ「この豚野郎!」の焼印でお願いしたく。人間のクズですみません。
もう駄目出しの嵐は覚悟の上。せっかくのリクエスト……なのに……。

脳味噌じゃなくて小梅の種が干からびてます。潤いを与えてからもそもそ書き物やったり原稿考えたりします。……もう何か10月本気で大丈夫なのか今から不安で堪りません。2冊とか夢物語じゃねえのか。


ドボンしている間にも拍手をありがとうございました! わたしあなたのやさしさで生きていけるヨ……。




【 木花開耶の業報 】

土から咲いた花は土へ帰り、――真っ新になって、また芽吹く。


「それでは、お願いします」
机上にあった簡を片付け終えた彼女は、最後の1巻を渡した下官が退室したところで大きく息をついた。腕を天井に伸ばして背伸びをし、筆記用具に蓋をして立ち上がる。そしていそいそと茶器の入っている箱を開き、侍女を呼んで湯の支度を頼んだ。執務を終えたのちのささやかな楽しみだ。小さな甕の蓋を開けてうっすらと漂う香りを吸い込む。えもいわれぬ良き匂いに彼女はしばし目を瞑った。
湯が届けられてからも静かな室内でひとり茶をじっくり堪能する。やることをやってしまえば、あとはあまり人が近づかぬ状態なので、楽しみを邪魔されることは滅多にない。隆中で縦にした変人のレッテルがこんなところで役立つとは思わなかった、と彼女は密かに笑いながら匂い立つ湯気に鼻を寄せた。


あまりにも長閑だ。彼女は熱の伝わった陶磁の椀を両手で挟み、陽光を遮る明るい扉を見やった。
このまま時間だけが過ぎ、知らぬ間に生命を終えるのではなかろうかという錯覚に陥りそうなほどだ。凝視していた扉に通過する人影が写ると、我に帰った彼女はそっと目を伏せて緩やかに首を横に振った。
終わりなど無い。己も、彼も、――また皆も。記憶の有無という甚だしい差異を除いては、この世界にある生命という生命が似たような存在で、流れていく時代を感ずることなく箱庭さながらの不変の時に戒められた駒として生きていくだけだ。
いまさら昔日を振り返ったところで為す術などない。後に悔いるとはよく言ったものだ。
薄くなってゆく湯気から垣間見る、細かに震える椀の中の茶に映し出される彼女の顔は歪んでいた。
彼女は歪な笑みを刻んだ口に椀を近づける。ふと目を落とした薄緑の水面に鬱葱と濃緑の生い茂る荊州の庵が思い出された。
生命が改まる頃合いに必ず草庵を訪ねてくる雲長には、常備してある蒲公英の茶を提供していた。またか、と苦々しい顔をしつつも一杯を必ず飲み干していく様が脳裏に甦る。――此度は彼と会う前に許都へ来てしまったが、今頃はどうしているのだろうかなどと感傷を馳せることはない。どうせ再び廻り合う生命。遇わずとも、会う。それが定めだ。
温くなった茶をひと息に飲み干してため息をついた。独りでいるとどうしても鬱鬱とした気分になり、取り留めのない考えばかりが頭を占める。
今一度首を振って思考を振り払った。折角の休憩を無駄にしてしまう。
もう一杯楽しんで気分を変えよう。そう思って椀を片手に立ち上がったそのとき、扉が急に開かれた。
「孔明。いるか」
紅朱の衣を靡かせて無遠慮に入室してきた孟徳に、孔明はこれ見よがしにため息をついてみせるが、彼はまったく気にせず竹簡を突き出した。
「文若から預かってきた」
「……かすめ取ってきたの間違いでしょう」
「そうつれないこと言うなよ。俺にだって茶を飲む暇くらいあってもいいだろう?」
悪びれず朗らかに笑んだ孟徳に、彼女は今度こそ本当のため息を吐き出した。文若が今頃、孟徳にふらふらする口実を与えてしまったことに歯噛みしているかもしれない。
簡を受け取ってから言葉の通りに茶器を示すが、彼は素っ気なく要らぬと放つ。かすかに感じた頭痛を堪えて孔明が机に簡を置くために身を返すと、彼は大股で彼女に近づいて手を伸ばす。黙って結い上げた髪へ挿してある玉の飾りが付いた簪に手をやると、孔明は弾かれたように振り返った。
「な、何ですか急に」
「使ってくれてるのかと思って。嬉しいねぇ」
「埃を被ったままでは細工師の方に申し訳ないですし、使ってやらねば道具も可哀想ですからね」
「なかなかの言い訳で結構」
「恐縮です」
楽しげな孟徳に対し、孔明は表情を消して形ばかりの礼を取る。軽く垂れた頭を持ち上げると、ずっと挙動を眺めていたのだろう孟徳の視線が彼女の目に留まった。凝視にも近いそれは、互いの瞳に互いの姿が映しだされていることも明確にわかろうもの。しかし孔明が恥じるでもなく、また畏れるでもなく視線を絡めたままで小首を傾げたのを見て、孟徳の口角が緩やかに持ち上がる。
「丞相? ……何か?」
「いや。変わらないんだなぁと思ってさ」
「華美なものが見合わないのは誰よりも知っておりますから」
「違うよ。お前のその目だ。俺のこと、真正面からまーっすぐ見るだろ。それは癖か」
「失礼、……致しました」
変わらぬ笑みを刻んだまま孟徳が告げると、孔明は慌てて目線を外した。不可思議な緊張感に鼓動が早まる。違う。孔明はとっさにそう思って目を瞑った。
繰り返す生命の中で、孟徳はいつだって彼女の真直ぐな視線を好んだ。いつのときにも相対したときには必ずそれを指摘し、無垢な色合いで紅蓮の双眸を覗く瞳を褒めた。
違う。呼吸すらままならなくなりそうな胸部への圧迫感に眩暈がした。孔明は孟徳の視線を感じたまま袖で口元を隠し、己へ言い聞かせるかのように再び違うとつぶやく。
不意によろめいた孔明を孟徳は抱き止めた。支えるだけだった腕が背中に回って彼女の痩身を懐に納める。密やかに名を呼ぶ唇が耳朶に触れたので孔明は瞬時に身を強ばらせたが、余力をもって孟徳の胸を押し返した。
「お約束が違いますよ、丞相」
「約束? ……――ああ。あれはお前の自戒だろう?」
耳に触れたままの唇が紡いだ言葉に思考が真っ白になった。視界を塞ぐ紅朱の衣に触れていた手から力が抜けてゆく。膝から崩れそうになったが、やはり孟徳の腕がそれを支えた。
伏龍を幕下へ加えるにあたり、孟徳は庵に3日も留まった。その成しように諫言を呈するばかりの道案内として随従した文若をとにかく黙らせ、畑仕事にも家事にも付き纏った孟徳へ、半ば投槍気味で折れる際に孔明は3つの条件を提示した。
ひとつは、漢朝の臣として仕えること。いまひとつは、軍事には一切関知しないこと。この時点で文若の眉間の皺の深さが最高潮に達していた。
そして最後のひとつが、女人として仕えない、ということ。自意識過剰だと笑われようが譲れぬと言ったなら、孟徳はただ「好きにするといい」と一言をこぼしただけだった。
許都へ来て正式に登用されたのち、彼は提示したことをよく守ってくれた。内政に従事するよう仕向け、戦が関与する朝議等には事前に連絡を寄越して場から遠ざけた。
しかし、瀟洒な衣や装飾品などの下賜も平然と人前で行い、まるで見計らったかのように独りであるときに部屋を訪う。良からぬ噂が立とうことは女という性がある限り避けて通れぬと承知の上であったが、これに関してだけは、孟徳は何もしなかったが孔明にも後ろめたいことはなかったので平静を保っていられたのだ。
庵での邂逅からこれまで、こうして彼が触れてくることは一度もなかったのに。
熱はひとを狂わせる。胸を叩くように鳴る早鐘を隠して再度孟徳の身体を押しやった。
「その気はありませんでしたが、たとえそうだとしても、部下に約定を守らせるくらいの度量はお持ちなさい」
「お前はお前の好きなようにすればいい。俺は俺で勝手にさせてもらう」
「いけません」
孟徳の手が身体の輪郭を辿るように背から脇を撫でるが、孔明はその手を捕らえて甲の表皮を抓った。とたんに孟徳が顔をしかめる。
「病人には優しくしろよ」
「また頭痛ですか? お加減が優れぬのでしたら、部屋へお戻りになって休むなり、奥で夫人様方に癒していただくなりなさればよろしいでしょう」
わざわざ此処へ来なくても。
肩口に降りた孟徳の横顔に向かって孔明はそう言った。
「別に何処で休もうと俺の勝手」
「文若殿に見つかったら叱られますよ」
腕を回したままの孟徳に苦笑し、孔明は脇に降ろしたままだった腕を持ち上げて彼の跳ねた髪を梳るように頭を撫ぜた。
破滅へ、そして死へ追いやったこともあった。志半ばで絶えねばならなかった呪いの言葉を聞いた覚えもある男とこうしていることに不思議な感はある。けれど孔明は伏せられた彼の眼差しからも隠すかのように、頭を撫で続けながら孟徳の肩口へと自身の額を当てる。
あるいは彼ならばと期待していたことは否めないが、はたしてそれを見逃してまで女を囲う男ではない。
やはり来てはならなかったのか。こうして許都に来ることこそが今生の定めであったとしても、肯かなければ、会わなければ、追い返せば――。衣を経ても直接に肌を触れ合わせているようなあたたかさに目頭が熱くなる。
淡い希望を嘲笑うかのように手薬煉を引いて待ち受けている久遠の絶望。
どうして忘れてしまったのだろうか。
ひとと交わっても孤独や空虚が満たされるわけもなし。だからといって交わりを避けて独りであることに耐えられるほど強くも在れぬ。
思い出の欠片だけでもかまわぬと達観し、また諦観したりもできないのに、終わりのない孤独に耐えきれずひとと触れあい、愛情よりも深い傷だけが残される惨めな生。
育った感情は必ず失われる。それは目覚めてから仮初めの死へ至る、孔明にとってはほんの瞬きの間のことだと――わかっていたはずなのに、独りであることが恐ろしく、自分勝手なこころのままに誰かに添うて支えて欲しいと願ってしまった。こうしているのは己のこころの弱さだ。
「……今夜、部屋へ行っても?」
「卞夫人様に言いつけます」
孟徳はため息に紛れて早く堕ちろとささやく。それを受けた彼女は撫でていた手を止め、両腕を彼の背に回した。知れず育ってしまった恋慕のままに縋れたらどんなに楽だろうか。
「いけませんよ、何もかもを望んでは」
「欲しいものを欲しいと言って何が悪い。目の前にあるならなおさらだ」
「我儘で面倒な愛しい方。こうしてこころを寄せ合っているのですから、それで満足なさいませ」
子供をあやすように孔明は苦笑をこぼして孟徳の背を軽く叩いた。
肉を土に、魂を天に還し、愛し愛されたこころだけを抱いて滅することも叶わぬ身。自身は望まずとも未練のように忘れ得ず、彼はまっさらなこころで甦る。孤独を満たす以上のことを許したとしても、疵を癒す暇も与えられずに哀しまねばならぬのは1人だけ。
「……何でお前が泣くんだ?」
「何故でしょうね。よくわかりません」
鼻を啜る孔明の頬に薄く唇を掠めた孟徳は上体を戻して彼女を懐に収める。たっぷりとした紅朱の衣は華奢な彼女の姿を容易く包み込んだ。
その胸元で孔明は静かに涙する。こうして寄り添っていても、今生の泡沫の夢から醒めてしまえば、またあの庵に独り生きることを始めなければならない。
何故。鮮やかな衣を濡らして虚空に問う。
永劫に繰り返すだけの生命ならば、その折々に様々な仕掛けを拵えた盤上を動くだけのものならば記憶だけでなく、意思やこころなど、個を成り立たせるものなども取り上げられてしまえばいいのに。
不意に顔を上げた孔明は、首を伸ばして孟徳の頬に口づけた。突然の行為に目を丸くする彼に泣きながら微笑む。
「お約束をしましょう。またあの庵へ迎えに来てくださったら、そのときこそは、私のほうからあなたを抱きしめて愛して差し上げますから」
謎かけのような言葉に訝る孟徳の視線を受けた孔明はただ笑みを深くした。
残酷な時間の流れは誰にも平等であるはず。――だのに、己にはそれを許されぬ。
けれど確かにここにあって幸せだった。このひとと過ごした時間は無駄ではなかったと思いたい。
ささやかな言葉でも、こころでもいい。憶えていてさえくれたら、それだけで救われる。
「この愛情が幻想だったこと知ってなおも卑怯な私のことを忘れずに、……いつかまた廻り逢えるときまで、どうか憶えていてくださいね、孟徳さん」
名をつぶやきそうな孟徳の唇に孔明は自身のそれを薄く重ねてすぐ離れた。それから心音を探るように頬を胸に押し付け、ゆるりと深くなった抱擁に彼女はまた涙を流した。
いずれまたひとり遺され、次には彼とすれ違ってしまうのだろうけれど、それを恨むことはない。
哀しみのうちにもひとを欲し、もろい愛情を望んでは胸が潰れる思いだけを残して改めて生きてゆかねばならないが、ひとを愛し、そのひとに愛されたいと願うことが、駒に成り切らぬ自身が未だ人間だということの証であるのなら、繰り返される生命の中で、愚かにも求めることを止めないのだろう。
矛盾した感情に惑い、振り回されても、いつかこころが壊れ、――失われてしまうそのときまで。

 

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