こういうのを、箸にも棒にもひっかからないっていうんだぜきっと。
頂戴したリクエストはこそこそ書いております。ただ、萌えが高じていらん小ネタ突っ込みすぎているのか、いつもの倍以上に長くなっている気、が……。自分の脳内だけが楽しいことになっています。
も、もう少ーーーし時間くださいいいいいいいいいガクリ。
遠方へ査察に行っていた公瑾が京城に帰ってきた。
ほんの10日ばかり離れていただけだが、その報せは睡魔と闘っていた花の目を覚まさせるには充分すぎるものだった。
侍女の報せで寝台から飛び降りた花は、夜着の上にいつもの上掛けを羽織って部屋から出ようとした。しかし、肝心の人物のほうが先に扉に手を掛けていたようで、外側から開かれた扉に驚くものの、駆け出した勢いの強さで急に止まることも叶わず、つんのめって転びそうになった花を支えたのは、陰から伸びた公瑾の腕だった。
「こんな夜分に元気ですね」
「す、すみません」
恐縮しながら彼の手を借りて体勢を整える。公瑾の手が離れてのち、花はようやく顔を見上げてほっと安堵の息をついた。声も聞けず、姿も見えなかった10日間の空白が瞬く間に埋まるかのような感慨を覚える。
城内に腰を落ち着けて政務を執るときに見かける朝衣でなく、肩当てに外套を纏った格好は戦を連想させて不安を感じるが、何事もなく帰ってきたことは何よりの幸いと受け取ってもいいだろう。
「お帰りなさい、公瑾さん」
「はい、只今帰りました」
はにかみながら花が言うと、公瑾は笑みを深くして応えた。
「てっきり寝ていらっしゃると思っていたのですが、わざわざ起きて待っていてくれたのですか?」
「え、えと、少し眠っちゃったりしたんですけど、公瑾さんが帰ってきたって知ったら目が覚めました」
「相変わらず正直で気の利かないひとだ。素直に諾と肯けば健気さも増したでしょうに」
「う……」
ちくりとした公瑾の言葉に、花はぐっと詰まって首を竦めた。相変わらず好い仲だろうと容赦のないひとだ。
「しかし、今宵は逢えぬと思っていたので望外の喜びでした」
外套から伸びた手が俯いた花の頬に掛かった髪を耳へと掛ける。そして顔を上げた瞬間、頤を摘まれて頭部を固定されると、そこに再び公瑾の手が寄った。髪と耳の間に名も知らぬ白い花弁の生花が差し込まれ、清涼な香りが鼻先をかすめた。横目でも視界に入るのだからそれなりの大きさなのだろう。
目線を上げると、公瑾は蕩けそうな笑みを浮かべて花を見下ろしていた。
「土産です。あなたに似合うと思ったので」
「あ、ありがとうございます」
一息に花の顔が朱に染まった。男性との交際はもちろん、明け透けな物言いにも不慣れなので、歓びよりも恥じらいが先行してしまう。彼と釣り合いの取れるような応対を身に付けたいものだが、これがなかなかに難しい。視線を逸らした先で花は自らの幼稚さに少しだけ唇を噛んだ。
「私はこれから報告に上がらねばなりません。あなたはどうぞ、今度こそ安眠を貪ってください」
「うう……公瑾さんの意地悪……」
自分が悪いのはわかっているし、彼は彼でそういう性質なのだから仕方がないとは思えども、もう少し言葉を選んではくれないだろうか。すっかりしょぼくれて足下を見てばかりの花の頭上から、公瑾の小さい笑い声が漏れ聞こえた。やっぱりいじめっ子だ。
さっと外套の端が風をはらむのを見て、花はぱっと頭を擡げた。
会えたのに、淋しい。声が聞けたのに、哀しい。やっと帰ってきたのに。
花はまるで独り置き去りにされたかのように不安を顔に貼り付ける。踵を返しかけた公瑾はそれを見止めると、ほんの数瞬の躊躇も見せずに腰を折り、彼女の白い頬に唇を掠めた。
「おやすみなさい、私の可愛いひと。……また明日、お目にかかりましょう」
耳元へ、彼女にだけ届くようささやき、わずかに視線を交えてのちに彼は今度こそ身を返して来た道をとって帰っていった。
唇の触れた頬を押さてその場にへたり込んだ花は、去りゆく公瑾の後ろ姿を見るともなしに眺めたが、彼の肩が小さく震えていたことまではさすがに気づかなかった。
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「白圭之玷 尚可磨也 斯言之玷 不可為也」
デレた後には、お黙りやがんなさいっていうくらい、こっ恥ずかしい科白連発しているといい!という希望を込めて。(もちろん、花が照れることをわかっている上で)都督は慎むことないだろうなー!という妄想を込めて。