都督です。
うーんと、「周ユさんが素面なのに山田さんにちょっかい出してる」と都督が指を差されそうな感じです。
先日、都督BADがどうしても気になったので確認してきたんですけど、やっぱ雑誌違うー。
失意のうちに帰還、と載ってたんですけど、花は玄徳軍に帰還してのち本を燃やしてるんですよね……。最初見たときに、うわー……・゚・(ノД`)・゚・ ってなったのを憶えていたので。
しかし表紙の色が変わってからの焼失なので、花孔明にはならないんだよね? ね?
もうひとつ見てないBADがあったからそれも見たのだけど、そちらもうわー……となるEDでした。
唯一、低好感度BAD見てないのは早安。あの子はもうそっとしておいてあげて、と思うので……。
BADでやさぐれたこころを癒すために、都督の告白シーンを見ておきました。
好きって言ったのに帰っちゃうの!? 別に聴き間違いならいいんだけど! な、アレです。いつ見ても笑え……いやいや、微笑ましいなあ!笑
暑く、蒸した日のつづいたときのことだった。
夕刻まで手が空いたので、長江へ連れ出そうと思い立って花の部屋を訪ねた折のことだ。
近くまで行くと、開け放たれていた扉から複数のはしゃいだ声が飛び出した。いずれも女性の声であり、京城ではかつてない場面に遭遇してしまった公瑾は、朝衣の袖で嘆息を覆って部屋の前に立った。
「花殿。なにをしているのです?」
入口にあった障屏をすいと避けて内に入り込むと、途端に短い悲鳴が上がった。
「こ、公瑾! 質しもせずに女人の部屋へ入ってくるとは何事ですか!」
尚香はそう言って、慌てたように上衣を取ると奥にいた花を隠す。一瞬それに気圧された公瑾は、謝罪とともに素早く身を翻して障屏の裏へ回り、長らく許しを待つこととなった。
断らなかったのは確かに問題があったかもしれないが、なぜ今日に限って怒られなければならないのか。しかも部屋の主ではなく主君の妹から。眉根を寄せて考えていると、足下に走り来る気配が二つ。苦手な喬氏の姉妹だった。
視線を足下に転じると、にこやかな笑顔で公瑾を見上げてくる彼女たちは、見慣れぬ装束を纏っていた。長すぎる裳のように見えたが違う。下衣を吊るようにしている露になった肩にかかった紐も細すぎて心許ない。公瑾の眉間の皺がぐっと深くなる。
「その装いは如何なるもので?」
「花ちゃんの国のものなんだってー!」
「涼しくて気持ちいいんだよー! かわいーでしょー!」
ついに公瑾は頭痛を感じて額を押さえた。
「公瑾。もういいですよ」
尚香の落ち着いた声音に、再び障屏を超えた。先刻の無礼に対して礼を取ってから、尚香と、その隣で肩を落としている花を見た。上掛けを纏った常なる花の装いに、なぜか違和感を覚える。
知れずこぼしたため息が、俯いて顔を上げる気配のない花にまで届いたようだ。彼女が胸元で組んでいた手を硬く握ると、尚香が公瑾に向かって口を開いた。
「これは私たちにも非のあること。花さんだけを叱るのはなりません」
「お言葉ですが、尚香様。こちらは彼女の私室。責任は彼女にあります」
「騒いでいたのは私たちも同じです。叱責を受けるのなら皆一緒です」
あくまでも強気の尚香に、公瑾は折れざるを得なかった。主公の妹を立てる、というだけでもないのだけれど、下方からの棘のような4つの目のこともある。
「……承知いたしました。今後、どうぞお気をつけくださいますよう」
袖口を合わせた公瑾は流麗な動作で拱手する。慇懃さは否めぬところだが、尚香は口を挟まなかった。
「私たちがいなくなったあとに花さんを怒ってはなりませんからね!」
「公瑾のいじわるー」
「公瑾こころせまーい」
すれ違い様の言葉にぴくりと公瑾のこめかみが動いた気がしたが、花はそれを見逃した。指摘したところで、今の状況ではとばっちりしかこない。
三人が退室したあとのため息は花を萎縮させた。恋仲とはいえ、締めるところは徹底して締めるのが周公瑾という男。彼の立場を考慮すれば当然なのかもしれないが。
「尚香様のお言いつけですからあまりしつこくはしませんが、妙齢の女人が大声をあげるのは感心しません。それも扉を開け放したままなどはしたない。以後、重々気をつけなさい」
「はい……、すみませんでした……」
恋人というより、母親にでも怒られている気分だ。
しゅんと項垂れると同時に衣擦れの音がした。しなやかな指が、垂れる花の髪ひと房をつまんでいる。花が顔を上げると、先刻と打って変わった微笑を浮かべた公瑾がいた。
「それで、何をあのように賑わっていたのです? 二人が見慣れぬ衣を着ていたようですが」
「あれはワンピースといって、私の世界で女の子が着ているものです。可愛かったでしょう?」
花は晴れやかに語りだす。尚香たちと装飾品や衣服の違いなどを話していたら興味を引いたらしく、詳細を説明したらさらに大喬と小喬が釣れ、拙い絵に言葉を添えて誂えたものの試着をつい先程行っていたのだという。
行動力のあるひとたちばかりだと花が感想を述べる目前で、彼女の髪を弄る公瑾は柳眉を曇らせた。
「似合わないこともありませんでしたが、どうでしょうね。室内や、この奥だけでならまだしも、普段に身に着けるには難があると思います」
「難、ですか?」
「はい。あなたの今の下衣と同じで、肌の露出が多すぎます」
「お、多いですか。で、でも、室内なら大丈夫、……ですよね?」
「それもあまり好ましくはありませんが、城内を歩き回るよりは良いでしょう。……もしや、あなたもあのようなものを?」
「私はキャミソール――ええと、これだけです」
胸元で結んでいた紐を解いた花は、上掛けを左右に開いて見慣れぬ着衣を示した。淡色の薄い衣は、やはり上衣を取り払ってしまうと腕や首周りの肌が露になる、二喬が着ていたものと型が似ていた。違いは長短の差のみ。
公瑾の表情が曇天からいっきに土砂降りの様相を呈した。細く鋭い印象を受ける眼差しが完全に閉ざされ、まるで頭痛を堪えるかのように髪を離した手のひらで額を押さえて俯いた。口から吐き出された息がかつて聞いたことのない種であることを、花は瞬時に理解する。
「……あなたは、己が奇異にして希有であることを理解していますか」
「た、ぶん……」
キイ。ケウ。花は口の中で言われたことを反芻した。公瑾が口端をひきつらせているので、あまりよろしくない意味のようだと思い至る。
胸の前で手を組み、恐れをなして視線を落とした花の前で、公瑾は額から手を降ろして腕組をした。
「尚香様や大喬殿、小喬殿はまだしも、あなたのように迂闊で警戒心の薄いひとがあのような格好でふらふらしていてご覧なさい。格好の餌食です」
「そ、それはいったい」
「誘っていると誤解されて――こういうことにもなりかねない、という意味です」
言うなり、公瑾は花の二の腕をつかみとり、懐に踏み込むなり足を軽く払って後方の寝台に彼女の身体を倒した。肉体への衝撃は軽かったが、別の意味での衝撃ならこれ以上のことはない。脚を割って膝を付き、起きあがれぬよう両肩を抑え込んだ公瑾がそのまま圧し掛かってきた。心臓が思い切りよく跳ね上がる。
「こっこここ、公瑾さんっ!?」
「非力な女ひとり、力尽くでどうとでもできる」
「――んっ」
低音が直接耳に入る。そして耳朶を甘噛みされて思わず声が漏れた。自分でも聴いたことのない音に、急激に体温が上がった気がした。身動きが取れず、逃げ場のない状況で縋りついたのは顔の見えぬ公瑾の上衣の袖だった。
「私の目の届かぬところで、私の手の及ばぬところで」
「あ、……あ、あっ」
輪郭に頬を添わせながら身体をずらしていき、喉の強く脈打つところに音を立てて口づけ、さらにずれて鎖骨を軽く食む。彼女の纏う甘い匂いに似た稚くも艶めかしい声が聞こえて思わず口の端が上がった。
そのまま何かに誘われるよう、ほんのわずか下方の、胸の膨らみ始めているところを強く吸った。明確な熱を孕んでいく身体は面白いように跳ねるが、そこには拒絶の意も抗う気力も含まれてはいなかった。
「少しは抵抗なさい」
「だ――だい、丈夫、で、す」
「……花、殿?」
「公、瑾、さん、なら、……かま、い、ません、から」
「――……っ」
公瑾は疾く上体を持ち上げ、花の肩から手を退かした。かっと頭に血が上る音を聞いた気がする。顔面に集中する熱は白皙を赤く染め上げるに充分すぎ、手で覆い隠すにはあまりにも無様だった。
肌という肌を朱にし、目を硬く瞑って全身を震わせる少女を見下ろした。
「そういう、ことを、言ったのではなくて」
「――! す、すみません! あ、あの! わ、たし――あの、すみません、ごめんなさい……!」
公瑾の言葉を刹那に諒解した花は弾かれたように飛び上がると、ぽろぽろと涙をこぼしながら乱れた上衣を戦慄く手でかき寄せる。身を捩って離れゆこうとしたところを、公瑾が抱き寄せて留めさせた。
「花、――花。そんな危うい言葉で私を惑わさないでください。……大切なひと。愛しいひと。どうか私に、私自身の手からをもあなたを守らせてください」
髪を、肩を、背中を優しく撫でた。もはや独り善がりの欲で汚していい存在ではなく、もちろん何人にもそれは許されぬ。その身に傷をつけるのが自身の手であるのなら、それこそ容赦など必要ないだろう。
首を伸ばして涙の留まる眦に口づけてから不安を滲ませたまま花を窺い見れば、彼女は慄きを治められぬままにも公瑾へ向かって表情をやわらげ、綻ばせてくれた。
衣服を改めた花からは距離をとって椅子を置いた。障屏を挟む形にしようとも提案したが、それは彼女が却下した。しかし顔を正面から向き合わせるのは先刻の余韻が邪魔をするのか、俯いたままだった。
「あ、あの、公瑾、さん」
「謝罪ならば私が。――申し訳ありませんでした。突然で怖かったでしょう」
「い、いえ! 確かに驚きましたけど、公瑾さんだったから、その、……怖くはなかったです」
「ですから、先程も言いましたがそのようなことを軽軽に言われては困ります」
公瑾が咳払いをすると、花はまるで火がついたように真っ赤になった。またも恥ずかしいことを繰り出したことに気づき、旋毛を見せてしどろもどろになっている様に苦笑する。
「私はあなたを傷つけたくない。……しかし、私も男ですから、時至らば遠慮はしないつもりですが」
大振りの袖口に隠されて表情の半分こそ確認は出来ないのだが、そんなことをぬけぬけと言い放った公瑾の顔を、花は目を瞬かせながらまじまじと見返した。
瞳の色はやわらかく見えるが、奥に潜む光はきっと本気だ。名家の朝臣ともなれば後継も望まれよう。花はじわりじわりと顔の表面の熱がさらに広がり高まっていくのを感じた。公瑾の目を憚るようにその火照りを手で隠すが、彼は目を伏せて穏やかに笑っていた。
「許していただけるのなら、もうその話は止しませんか? 私たちは天に許される限り共に在らんことを約束したのですから、いずれも刻が解決してくれるでしょう」
「は、はい」
「それより、騒ぎの内で言いそびれていたのですが、――夕刻まで手が空いたので、河へ行ってみませんか? 城より少しは涼がとれるかと思います」
「は、はい! 行きます、是非!」
「では、着替えを」
上掛けの下は騒動の元のままだ。弾む気持ちのまま声高に返答して奥へ下がる花に対し、公瑾は彼女に背を向けて退室した。
出でた先の回廊から小手を翳して見上げる陽は高く、降り注ぐ光は刺すように強い。陽光より手前にある己の手を見つめた公瑾は、不意に眉尻を下げて苦く笑った。
時節は望まずとも勝手に過ぎ去ってしまうけれど、身の内に宿った熱は彼女が傍らに在る限り醒めることはないのだろう。
お待たせしましたと言い、満面の笑みに息を弾ませて隣に立った少女に手を伸べる。花がはにかんでそこに小さな手を重ね、公瑾は面映そうにやさしく握り、手を繋いだままで二人は回廊を歩きだした。