【新刊】
瑞祥好天 コピー/A5/32P ¥300
元譲さんと孟徳軍のひとたち(+花)。
元花なんて言えないおこがましすぎる内容。毎度のごとくキャラ捏造(史実には存在)とオリジナルキャラがいますので、いつものごとく不得手な方はご注意ください。
【既刊】
銀糸絡まる金の月 (公花)オフ一色/A5/36p ¥400
花に嵐 (文花)オフ一色/A5/28p ¥200
磐長哀話 (花孔明)コピー/A5/48P ¥500
零陵香 (玄花)コピー/A5/28P ¥300
銀糸~以外は残部僅少。
既刊の本文サンプルは11/11の記事を参照ください。
【瑞祥好天】 元*花(には程遠い内容)
「え? え、えと……すみません」
「その謝罪は、妙才の言っている意味をわかってのことなんだろうな」
腕を組んだ元譲が呆れた様子で言えば、花は恐縮して首をすくめた。はらりと彼女の髪から枝葉が落ちると、妙才は厳つい従兄弟の脇腹へ鋭く肘を食わせた。元譲の顔が俯き加減の花の視界外で歪む。
「それでー、植え込みの中で何をやってたんです?」
妙才はことさら明るく振る舞ってみせ、花の顔を覗き込むように身体を折った。にっこりと人好きのする笑顔で花の目線を捕えると、彼女は口を開きかけたのも束の間、あちこちと目を泳がせだした。
諦めずに食い下がってみたなら、聞かねば退かぬという空気を感じ取ったのか、ため息に似た吐息をひとつこぼしてから顔を上げた。
「探し物を、……していたんです」
「なるほど。でも、あんなふうにしなくたって、この中にあるってんならいっそ全部刈り込んじまえば」
「い、いえ! あの中にはなかったのでそこまでする必要はないです」
「ん? ……どういうこと?」
花の物言いに妙才が首を傾げる。
「探しているのは、その、どこに落としたのかわからないもの、でして……」
「落とした場所がわからんと、お前は植え込みに頭を突っ込むのか」
「そ、れは、……もしかしたら、風で飛んじゃっているか もって、思って」
「吹けば飛ぶようなものなら庭になぞ残っているわけないだろう」
「それは、……そうなんですけど……」
花が言う端から元譲がそれを否定するように畳み掛けていく。すると、目の前の娘の頭はしょんぼりと垂れ下がっていき、言葉が止むと完全に下を向いてしまった。枝が絡みながらも髪が左右からはらりはらりと落ちて彼女の顔を完全に隠してしまう。
すると妙才は、今度は左手で押し込むようにして右肘を元譲の脇腹に食い込ませた。予想外の衝撃に思わずぐうっと唸り声が漏れたが、花はぴくりとも反応しない。ぎろりと眼光鋭く隣の従兄弟を見下ろせば、彼は身振り手振りを交えて元譲に訴えかけていた。
(~中略~)
「不恰好な男どもに常に囲まれて荒む俺の気持ちもわかれ」
「わかりたくもありません」
「俺ならあんな地味なものなど着せず、もっと華やかで艶やかな衣をだな」
「丞相のお気持ちは理解できなくもないこともないですが、あの叔父上が、質素すぎて他者なら控えそうな色合いだろうと女人に衣を贈ったことは大いなる進歩。私はあのまま、花殿には叔父上の近くに在っていただきたいと思います」
「彼女は使いようによってはどちらにも良い作用が働く。何せかの伏龍の弟子だ。ぬるい内政だけではなく、もそっと軍議に参加させて磨きをかけさせれば、あの娘はきっとさらに化けるかと」
「――お前はどうだ? 妙才」
四阿の囲いに背を預け、腕を組んだ孟徳が焔を思わせる双眸で妙才を見上げる。彼はようやっと揃い出した短い顎髭を撫でながら文和と公達を見、最後に孟徳へ視線を置いた。
「俺は今のままでいいと思いますがね」
「そうか」
簡潔な妙才の答えに孟徳の口端が面白げに上がる。
そしておもむろに腕をほどいたのちに妙才を近くまで招き寄せ、身を屈めてやってきた彼の首に素早く腕を回して身柄を絡め取った。驚きはしたものの、妙才は膝をついて孟徳のなすがままに任せる。
「お前は誰の味方だ?」
「何です、いまさら。俺はいつだって主公の味方ですとも。決まってるじゃないですか」
「では、俺と元譲だったら、お前はどっちに付く?」
「えっ」
心の臓と身体がどきりと跳ねる。妙才はとたんにだらだらと目に見えぬ冷や汗と脂汗を全身に流した。どこまでが冗談でどこからが本気なのかまったく掴めない。これは元譲でも判断に迷うところだろう。
妙才が返答に窮していると、孟徳は腕に力を込めて喉を絞めつけてくる。痛みはないが徐徐に感じていく息苦しさに、じわりじわりと攻めたてられているようで空恐ろしくなった。