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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/11/24 (Sun) 10:31:57

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No.20
2010/06/16 (Wed) 01:12:12

ふと、軍師祭やりたいなーと思ったんですが、お題も10題中まだ4本しかっていう状態なので、きちんとひとつずつしてからにしようと思いました。不器用な自分にガッカリ。
もう少し落ち着いてから軍師祭のことは考えよう。……リ、リクとかあったら以下略。すみません寝言です。

ということで、お題です。
あと6題がんばるぞー!
明日の投票結果をわくわくしながら寝ます。いい加減寝不足どうにかしないと。
というか重くて弾き出されそうな予感たっぷり。

拍手、ありがとうございましたー!
都督の、「人より少しだけ厚い面の皮」をわけてもらいたいと思う今日この頃でした。




邸へ戻ったのは深更だった。裾を払って邸内へ入り、慎ましい灯りの下で出迎えを受けた。夜雨に濡れた上衣を渡し、代わりに差し出された手拭いで髪などを拭いながら侍女からの報告を耳にする。そして食事を取らずに小さな手燭の蝋燭に火を点けると奥の部屋へ向かった。
臥せている彼女の部屋は暗かった。当然といえば当然なのだが、文若は扉に手をかけた刹那、軽く皺を寄せた。外気に冷えたそこから手を放して眉間を揉み解す。
いくらなんでもこんな夜更けに訪ねるのは勝手が過ぎるだろうか。宮中では補佐として傍に置いているものの、彼女とて年頃の娘。言い交わした仲だとしても思慮分別すべきことだろう。ましてや相手は病人だ。
揺らめく小さな炎をしばし見つめてのち、それを消してしまおうと息を吸ったときだった。
「……誰かいるんですか?」
微かな声が耳に届いた瞬間、文若は思わず戸を押した。湿った空気とともに入室して手燭を掲げると、寝台の上に上体を起こしていた花の姿がぼんやりと浮かぶ。薄暗い中でも彼女のやわらかい微笑みが、なぜか文若の目には明瞭に映った。
「文若さんだったんですね。おかえりなさい」
「何をしているのだ。起きていては身体に障るだろう」
足早に傍へ近づき、手燭で彼女の顔を照らす。きょとんとした花は、いきなり小言を浴びせられたにもかかわらず、微笑を返して寝台の脇においてあった椅子を文若へと薦めた。
目を眇めた文若は手燭をすぐ側のわき机に置くと、肌掛けの上に広げてあった上衣を取って花の肩に掛けてやった。ふわりと小さな風が起きる中に薄い香りが立って彼女の鼻先をくすぐった。
「……今日はすみませんでした。忙しいのにお手伝いが出来なくて」
「仕事の心配より己のことに気を配れ。自身の不調を、倒れるまでわからないはずがないだろう」
「…………すみません」
花は肩と頭を落として反省の色を示す。病に臥している相手に厳しくしすぎただろうか。文若は咳払いをしてから席に着き、そろりと手を伸ばして未だ熱の篭もる彼女の頬に触れた。
花がびくりと身体を震わせたので慌てて引いたが、逆に彼女はそれを引き寄せて再び頬に添わせた。それを堪能するように、花は気持ちいい、と呟いてからほうと安らかな吐息をつく。
「私がいた世界では、手が冷たいひとはこころが温かいっていう話があったんです」
「理解しかねる。その根拠は何なのだ」
「さあ……私も聞いただけなのでよく知りません。でも、文若さんはやさしいひとだって知ってます」
温かくても冷たくても関係ないですね。そう言って薄闇の中で花が微笑むと、文若も緩やかに目を細めて小さく笑った。
不意に彼女がくしゃみをして身体を震わせた。鼻をすすって上掛けの襟元を寄せる。
「身体が冷えたか」
「だ、大丈夫です! から……」
花は叫び、立ち上がった文若の衣をとっさに握りしめた。大振りな袖にもその必死さが伝わる。 
けれども文若は、そんな彼女の手を丁寧にも解いてしまった。花は彼の行動に明らかな落胆の色を浮かべるが、次の瞬間には心臓が跳ね上がった。
寝台に深く腰をかけた文若は、袖を払って彼女の肩を抱いた。まるで自身が纏ったかの如く清涼な薫りに包み込まれ、丸めた目を安堵に閉じて感じられる温もりに身を寄せた。
「……今日はあまり捗らなかった」
ささやきが彼女の耳元にこぼれる。花がちらと横を向くと、文若は暗闇を見据えたままため息をつき、それからぽつりぽつりと一日の出来事を語りだした。
花がいないから元気が出ない。仕事が出来ない。やる気が起きない。潤いがないつまらない。真面目に執務をこなしている傍らで、朝一番に執務室へやってきた孟徳は花が使用している机に伏し、口を尖らせてそんな愚痴ばかりを口にしていた。迎えが来てもその人物にまで文句を言い、仕舞いには花がいないのはお前の所為だからお前が全部やればいい、とまで言われる始末だった。
そこまで言うと空いた手で額を押さえ、再び彼はため息をついた。まざまざしい光景は、その隣で視線を泳がせた花に謝罪すべきか笑うべきか悩ませた。
しかし、と文若は声を繋げる。
「丞相の仰ることがわからぬでもない。お前がいないあの部屋は、とても静かだった」
「……それって、私がうるさいっていうことですか」
「そうではない」
拗ねた彼女に苦笑し、文若はさらに抱いた肩を自らに寄せた。
「あれは恐らく、……淋しいと、言うのだろうな」
花の代わりだといってやってきた官は、黙々と為すべきことをこなし、文若の補佐を整然と務めた。一度も休憩などとらず、口にしたのは予め用意してあった白湯のみ。処理された書簡は指示もなく運ばれ、新たに届けられたものは問わずとも順を改められていた。孟徳の妨害も朝の一刻限り。執務はまったく滞ることなく至極順調であった、はずなのだ。
不意に泳ぐ視線が向かう先は彼女に与えた机。面映げに浮かべた笑みが見えたりしたのは目の錯覚。
賑々しい足音も、危うい素行を注意することも、同じ指示を二度三度と与えることもまったくなかった一日。多忙であったが平穏だった。――表面上は。
ふとした瞬間に思う物足りなさ。風が吹き抜けるような胸中の穴。かつて感じたことなどなかった苛立ちは、けれど花の笑顔ひとつを思い浮かべるだけで治まってしまう。彼女ひとりの姿で事足りてしまう。
「声が聞けぬ。笑みが見えぬ。……花、お前が傍にいないのは、私がつまらぬ」
無色にも近かった世界に彩りを与えた異世界の娘。
孟徳との確執も、花がいなければ後悔しか残らぬまま果てていたことだろう。
もはや彼女なしの世界は考えられぬ。それほどまでに花という存在が自身の内に確立されているのだ。
指先の冷えた花の手を握り、傍らにあるやわらかい香りのする髪に唇を寄せた。すると、腕の中にいた彼女が身じろいだ。握られた手を返して指を絡め、そっと首を動かす。
「あ、の。わ、たしも、淋しかったです。文若さんがいなくて……」
「では、お相子だな。配慮不足だった私も悪いが、何も言わなかったお前も悪い」
「そうですね」
微苦笑をして彼女が文若を見上げると、いつにない蕩けそうな視線で見下ろされていることに気づき、下がりきっていない熱がさらに上がったような気がした。
恥ずかしく思うも交わった目線は逸らせぬまま。しかし彼女が満面の笑みを浮かべて文若を見返すと、肩を抱いた腕が離れ、冷えの引いた手が花の頬に添えられた。
「早く良くなって、私の傍でまたそうして笑っていてくれ。比翼の鳥のように、時の許す限り共に在ろう」
彼女の喜びに震える応えは互いの口に飲み込まれる。
やさしさをもって重なった唇は、さらに深まった想いを分かちあうかのように熱かった。

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