記念すべき(かどうかは知らない)三国初書き。
時間が経つにつれ、師匠のことは殴ってやりたい気分が溢れ(ry
花の気持ちも訊いたってよ!!! という。
まああの、幸せになってください……
年を経ていくごとに、諦めることも、嘘を吐くことも巧くなっていく。
物事に対して正直に生きていくことは時代が許さなかった。そうしなければならなかった。そうしなければ、独りで生きていくことなど出来なかったのだ。
彼女は消えてしまった。いなくなってしまった。
だから、あれは白日の夢だったのだと、はじめからなかったものだと思えば良かった。
最初から存在しないものならば、手に入れたいなどと、ずっと傍にいてほしいなどと願わずに済む。
そうすれば、いつか訪れるだろうその時を、素直に受け入れられると思ったのだ。
「花」
「はい……」
抱擁したまま名を呼んで頬を合わせる。照れているのだろうか、重なった肌が少し熱い。
ためらいながらも上衣を握っている手が嬉しい。彼女がここにいる現実を実感させてくれる感触に歓喜が溢れる。
「花」
「……はい」
あのときもこうして名を呼んだ。もう二度と呼ばわることが出来ぬと思っていただけに、こうして再び、何度も声に乗せることが出来る喜びをどう表現したらいいのだろう。
戸惑いながら応える彼女に、どう伝えたら良いのか。
「花」
「師、匠、……あの、ですね」
「うん、君が恥ずかしいって思ってるのはわかってるけど、もう少しだけこのままで。……ごめんね」
耳元でささやけば、胸中のひとは小さく首を振って少しだけ身体の重みを預けてきた。
背に回していた腕に力を込めて抱きしめる。やわらかな髪を梳きつつ頭を撫で、己の中にいるひとが確かな存在であることを、幾度となく噛みしめた。
夢の中の仙女。ふと現れ出てたと思いきや、瞬きの間に光の中へ消えてしまった幻のひと。
留まれぬ時を経て、流れゆく時の中にありながらも変わらぬ出で立ちで再び現れた。
戻るのだと言っていた。帰りたいと言っていた。
けれども彼女はここにいる。彼女の意志で、ここにいる。
これを運命と言わずして何と言おうか。
「……あのさ」
指を絡めて手を握りあわせ、彼女の耳元で再度ささやく。
一瞬、身体が強ばったものの、彼女は肩口に置いていた頭を肯定の意として微少に押しつけた。
――幸せになろうよ。
彼女の幸福が己のそれに繋がる。だからそれ以上を望むことはないのだけれど。
2人は鮮やかな夕陽を背に浴びながら、手を繋いだままで城門をくぐった。
あのときのように離れることは出来なくなってしまった。彼女が望み、この世に在ることを選び取ってくれたのなら、祈り願う道が重なったのなら、もはや躊躇することはない。