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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/11/24 (Sun) 10:34:04

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No.181
2012/07/03 (Tue) 23:54:04

孟花風味(かなり薄味)。
ひどいオチがついてしまいそうなのであいまいにしました。
雲花ざっぱメモがどこかに雲隠れしてしまったので書きかけだったこちらを先に。どこに行ったのほんと……

拍手、ありがとうございました! やっぱり猫をモフりたい。猫いいなあ!



「そこの者」
茶の支度を一式載せた盆を持って回廊を歩いていたら、どこからか声がした。花はその場で足を止め、頭を振って周囲を眺めてみるが誰もいない。結いあげた髪に射した簪の飾りが小さな音を立てている。
正面に向き直った花は、淡い橙の衣の袖を頬に当てて空耳かしらと首を傾いだ。
すると、ひとの気配とともに、通り過ぎたばかりである部屋の扉が慌てて開かれ、陰から一人の若者が半身をさらしていた。
「お前だ、お前。そこで首を振っている挙動不審のお前のことだ」
眉尻を吊り上げ、何やら苛立たしげなように見受けられる。物言いが乱暴だなと思った花が思わず目を眇めると、彼は先ほどの花の勢いに勝る強さでかぶりを振って周囲を見渡し、誰の姿もないと確認すると、花の腕を取って部屋の中に引き入れた。後ろ手で扉を閉めた若者は、しばらく背後に注意をしている。
無事に策は成功した。かいてもいない汗をぬぐうように、若者は大仰な動きで袖を振り上げ額をぬぐった。
「……あの、なんでしょうか」
「そなた、文若のもとにいる珍妙な女子を知っているか」
緋に似た鮮やかな色合いの袖口を合わせ、ぴんと背筋を伸ばし、まるで威嚇するように花を見下ろす若者は、傲岸な態度でもって花に問うた。
「ちんみょうなおなご、ですか?」
「要領の悪い奴だな。知っているのか知らぬのかはっきりしろ」
「はあ、知っていますけど……」
「どのような女子だ? 見目は良いか? 知恵はあるか?」
若者が急に腰を折って顔を近づけてきたので、花は顎を引き、足裏を引きずってあとずさる。理由は知らぬが、その女の情報を得ることに必死のようだ。他人のことのように自らのことを訊ねられるとは不思議なものだと、妙な感覚を持った。彼女は視線を逸らして宙にさまよわせる。
「見目は……普通なんじゃないでしょうか。知恵は…………どうでしょう。よくわかりません」
「……致し方ないがそなたに命じるしかあるまい。その者に取り入って身辺を探ってまいれ。……その者は、先の南征の際、父上に付き従ったと聞く。父上とどのような仲なのか聞き出してこい。それから、孫仲謀がどのような男だったかも聞いてこい。迅速にな」
曖昧な花の回答に、若者はやや考えるような素振りを見せたのち、妙案であるとでも言うように口の端を上げ、ぴしりと立てた人差し指を袖から覗かせ花を指した。唐突な出来事に花が目を丸くしていると、想像していた反応と違ったことに腹でも立てたのか、すぐさま目じりをきつく上げ、不満を明らかにさせた。
「この私が、お前のごとき下賤な者に命じているのだぞ。それも、直直に!」
「は、あ……」
こういったことに覚えはある。だが、ここまで横柄な態度を真正面から見せられることはあまりなかった。どちらかといえば、陰でこそこそされることのほうが大半だったので、花は思わず面食らってしまった。
この宮城にいる官吏全員を、花は見知ってはいない。どのような立場の官で、どのような理由で自分のことを調べたいのだろうと考えてみたが、思い当たることがありすぎてすぐに思考を止めた。
孟徳、あるいは文若に聞いてみたなら彼の正体が判明するだろうか。しかし若者の立場が悪くなることになるかもしれぬと思うとそれもためらわれる。安請け合いをして困るのは自分だって同じだ。
文若よりも深く眉間を波立たせた若者の前で花が返答に窮して困惑していると、足元の空気がふわりと動いた。裾がゆらめくのを見とめたあとで若者の背後に目をやると、花はぱっと目を輝かせた。
「知ってる声が聞こえると思ったら」
「孟徳さん」
「やあ花ちゃん、今日もかわいいね。――もう少し色味の強いものでも似合うと思うけど、淡いと君の愛らしさが際立って見える。うん、我ながら良いものを選べた。また贈ってもいい?」
入口の戸に寄りかかっていた孟徳は、花を褒める言葉を並べながら風を切るように大股で二人に近づく。そして、背を向けていた若者の頭をがっしりとつかんだ。彼女からすればただ頭に手を置いたようにしか見えないが、その実、甲には血管が浮かび上がるほどの力が込められていた。若者の表情が瞬時に凍てつく。
「お前もこんなところに彼女を連れ込んだりして、いったい何をしていたんだ?」
「こ、これは……っ」
「孟徳さんのお知り合いなんですか?」
孟徳の到来は意外だったが、これは良い切っ掛けになる。早くこの場を去りたかった花は、話題の転換を試みるべく、若者の上ずった声を遮るようにして自身の感じた疑問を重ねた。見知らぬ人間との奇妙なやり取りで、自分でも気づかないうちに緊張していたのかもしれない。
若者の頭部をしっかり押さえたままの孟徳は、花の問いには言葉でなく笑顔だけを返し、逆に彼女の手元を指差した。
「とりあえず、ここで何をしていたのかはあとで聞かせてもらうとして。――それ、冷めてるんじゃない? 大丈夫?」
指摘を受けた花が、あっと口を開いた。移動距離を考えて熱湯を用意してもらっていたが、この出来事は予想外であった。花がそろそろと湯の入った瓶に触れて微妙な顔つきをするので、孟徳は文若が怒っているかもしれないよと言って契機を与え、この場を去るようやさしく促す。
「転ばないように気をつけてねー」
ぺこりと頭を下げて背を向けた花に、彼はひらりと手を振った。
あらゆる感覚が彼女に集中したためか、わずかに油断が生じる。頭上からの圧力が弱まったその瞬間を逃さなかった若者は、彼女のあとを追うように大きく一歩を踏み出したが、そこはさすがの貫録か、はたまた年の功なのか、さながら首を絞めるがごとく若者の襟首を力いっぱい握りしめた。
不穏極まりない空気に若者の身体が凝固する。
「さて、久久にじっくり話をしようじゃないか。――なあ? 子桓よ」
地を這うような低音に反応して振り返り、形ばかりの笑みを正直に受け止める勇気など微塵もない。
こののちどのような仕儀が待ち受けているのか、それは孟徳にも若者にもわかるはずはなかった。

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