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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/11/24 (Sun) 09:58:40

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No.175
2012/05/20 (Sun) 23:47:17

遅くなりました。もはや恒例の文句です。

過去の玄徳の対応をしてしまって戸惑う花孔明、という内容のリクエストを頂戴しておりました。
玄兄と花孔明。したてる。
たぶんフォロー話を考えておいたほうがいいかなと思いました。ので考えておきます。形になるかどうかはわかりませんが(それじゃ駄目だろう)
い、いかがでしょうか。真面目に行けるかと思いきや、ああなってしまいましたすみません……。
勉強させていただきました。ありがとうございました!



こころのかけらを得ては失せる。
繰り返し受ける生の咎は、果たしてどこまでが天の仕業なのか。

最期に目を閉じ、次に開いたなら、そこは赤に重なる紅蓮の焔。
あの本が炎の中に消え、かつての己が無くなっていく。
この永久を廻る輪から逃れることは叶わぬ。たとえどんな恥をさらして生きたとしても、惨めに死を遂げたとしても、終われば嫌が応にも新たな生命を綴ることとなる。
不幸中の幸いとなせるのは、生前の記憶をかろうじて有するものがただ一人であることくらいであろう。――なんとも不可思議な表現ではあるが、それしか言いようがない。
あれが此度にも引き続くようであったなら、隆中で彼と相対することなくあちこちを逃げ回らなければならなかっただろう。
いや、それ以前に、この乱世ではどこへ行ったとても平穏な生活など望めないだろうけれど。
格子から射し込む陽光を遮るかのように眼前へ立てた羽扇の陰で、孔明はため息をこぼした。瞬間だけ閉じた瞼をそろりと開く。
すると、文武の衆の目が自身に集まっていることに気づいて目を瞬かせた。内心の動揺を隠し、ちらと横に目線をやると、上座の玄徳は、眉尻を下げて彼女を見上げている。
「……先生」
そう言った玄徳の声に、孔明は正直に非礼を詫びた。袖口を合わせて首を垂れる。
「申し訳、ございません。……少少、考えごとをしておりました」
「左様でしたか。お加減がすぐれぬのかと、心配いたしました」
玄徳が明らかに安堵したというように、座から立ち上がって胸をなでおろした。それから、近侍に指示して椅子を持ってこさせる。彼は自分の近くにそれを置かせ、孔明に座るよう勧めた。
その間、広間でそのやりとりと見ていた玄徳配下のものたちは、孔明に胡乱な眼差しを向け、小声で何かを語らった。その声が遠慮なくにぎやかになっていくと、玄徳は広間に向かって叱りつけた。
だが、そんな主君よりも大声で反論を唱えたものが現れた。――集団の中でも長身で目立つ、翼徳である。
「兄いは孔明を贔屓しすぎ! オレたちのほうが長ーく兄いといるのにさ!」
「贔屓ではない。それに、孔明先生は女人であるのだぞ。長時間立ちっぱなしでは」
「それでは、玄徳様はわたくしを女と認識していないと受け取ってよろしいのでしょうか?」
翼徳の近くにいた芙蓉までもが、声を高らかにして申し立てる。眺めやる表情には不満がありありと浮かんでいて、それは孔明のみならず、玄徳に対しても表されていた。
それを皮切りに、他のものからも不満が飛び出し、軍議の収拾がつかなくなってしまったので、玄徳は無理やり散会させ、皆を広間から放出させた。


「申し訳ありません……」
憲和と雲長を供に、玄徳の執務室へ行く道すがら、孔明は改めて謝罪した。肩を落としてがっくりとしている様子に、頭を下げられている玄徳のほうが恐縮して孔明の顔を覗き込む。
「先生が謝られることではありません。――あの騒動は私の至らなさを示すもの。伏龍先生にお出ましいただき、お知恵を拝借したいと願いましたものを……」
「いいえ、わが君。それは違います。私は御身の盾のひとつとなったのですから、かような殊遇は誤解を招きましょう」
「しかし――」
互いが互いの言葉を否定しあい、相手を上に置こうとする。回廊をゆっくりと進み、または足をとめながら、2人は言葉を交わしあった。そんなやりとりを、後方に付き従う憲和は顔や頭を掻きながら、雲長は眉間にしわを寄せながら眺めていた。口を挟む余地は幾分にもあるが、面倒臭い気分が先に立ってしまって声をかけられぬ。
そうこうしているうちに、無意識に各各の位置に立った発言が交わるようになった。玄徳は軍をまとめるものとして、孔明は主の考えを補い、それを最善とするものとして、真剣な表情で意見を重ねていく。至極自然な流れだったので、憲和は思わず口笛を吹きそうになった。水魚の喩えもまんざらではないと思える。
2人ばかりの議論は熱を帯び、こうして回廊を歩いている時間すら惜しいというように声が途切れなかった。横顔に問いかけ、見合わせて応える。実に器用だ。
しかし、感心したのもつかの間。回廊の曲がり角に近づき、このまま進めば外側を歩いている孔明が柱に衝突してしまうと思った憲和が、玄徳たちに割って入ろうとした。
歩調を計算に入れていなかったのは失敗だった。のちに憲和はそう語る。
玄徳とのやりとりに気を取られすぎていた孔明は、がつんと柱にぶつかった。眩暈を覚えたのは一瞬のこと。そのあとのことは、あまり考えられなかった。
「孔明!」
目を開いていると世界が揺れて見える。だから孔明は景色を閉ざした。自分は倒れているものとばかり思っていた。
けれど、身体を包んでいるのは憶えのある温かさだった。淋しくて、哀しいぬくもり。それはうしろめたく、後悔の念にさいなまれるだけのやさしさ。
孔明はわけのわからぬまま、頬にあたる熱にすり寄った。失われたはずであると理解しているのに、ひどく懐かしく、あのときのことを思い起こさせる。
彼の望みを、あともう少しでも聞き届けていたら、こんな気持ちにはならなかっただろうか。
――こんなふうに生前を追想することなぞ今までなかったと記憶しているが、これは玄徳と再会したからなのだろうか。呼吸を整えながら、孔明は身を包み込むあたたかさに寄り添った。
「あー、……その、なんだ。そういうのは、夜間、2人きりでやってもらえませんかね?」
わざとらしい咳払いのあと、憲和は平坦な声音でそう告げた。
目を瞑っていた孔明は、その台詞で我に返り、閉じていた世界に戻ってくる。眼前には見慣れた色合いの衣があり、ふいとそこから横を見れば、無人の庭に目をやって頭を掻いている憲和と、双眸鋭く孔明を睨んでいる雲長がいた。それから正面に戻し、上を見る。
すると、見開いた両眼で真正面を見据え、両腕を直角に曲げたままで凝固している玄徳がいた。
そこまでして、彼女はようやく自分がどのような状態にあったのかを知り、顔だけでなく、ひと息に全身が茹だったように熱を帯びた。真っ赤になった孔明を見た憲和は面白そうに目を眇める。
「すっ、すみません! ――ごめんなさい! ごめんなさいっ!」
孔明はそう叫ぶと、足元に落ちていた羽扇を踏みつけ、脱兎のごとく駆けだした。
が、裳裾が足に絡まってつんのめり、憲和がそれに反応して短い声をあげたとたん、派手に転倒した。すぐに起き上がって再び小走りで去って行ったが、遠くで侍女の悲鳴と何かが派手に割れる音が響いたのを聞いて、憲和は思わずぴしりと額を叩く。相当に慌てているようだ。それまでまったく身じろぎしない玄徳の側で、表情のなかった雲長が静かに顔をしかめる。
「……玄兄を頼みます」
「頼みの綱の軍師殿を虐めて追い出したりするなよー」
大股で孔明のあとを追いだした雲長の後ろ姿に、憲和はのんびりとした調子で言い放った。


まるで直に炎に手を当てているみたいだ。自分の頬を包みながら孔明はそんな感想を持った。
とにかく顔が熱い。――否。顔だけでなく、全身から火が出る思いだ。
回廊を駆け抜け、階を降り、無我夢中で手狭な庭園の隅にある低木の群れの中にうずくまった。のどかな自然だけが孔明を取り囲む。けれど、茫然としていた玄徳を思い出せば、目を瞑り、耳をふさぎ、外界を謝絶しようとも、自身の乱れた呼吸と鼓動が治まりきらないので苦しくてたまらなかった。
なぜあんなことをしたのだろう。自問するも答えは見つからず、ただただ頭を抱えて羞恥心に耐える。
(あれじゃただの変態じゃない! ……それ以前に女でも変態っていうの?)
「おい、そこの痴女。さっさと出てこい」
背後から容赦ない声が降るや否や、わあっと大声を上げた孔明は身体を丸めた。
「雲長さん、ひどい! 意識してやったわけじゃないのに!」
「それならどういう了見で主君にあんな真似をしたのか説明しろ」
雲長は孔明の腕をつかみ取り、強引に立たせる。彼女は嫌がってぐずぐずしていたが、雲長はそれを許さなかった。無言で俯いたままの孔明をきつい眼差しで睨む。
「もうあのときの玄兄じゃないんだぞ」
「そんなこと! ……わかって、います……」
いったん上げた顔をすぐ伏せる。雲長の厳しい顔つきを、今は正面から受け止めるだけの余裕がなかった。
男女であったのはたったの一度だけ。夫婦であったのはほんの瞬きの間のこと。永遠を生きなければならぬ身であるのだ、たとえ雲長に言われずともわかっている。
諸葛孔明は劉玄徳の臣下であらねばならぬ。ゆえにあのような時間は二度もない。
二度と、ない。
足下を見つめたまま唇を噛み、そのまま沈黙を続けていると、頭上でため息が聞こえた。
「後宮の居心地がそれほど忘れ難かったか」
「雲長さんは意地悪です! 雲長さんなんて……雲長さんなんて、芙蓉姫に料理をけなされて赤兎に蹴られて長江に落ちちゃえばいいんだわ!」
孔明は顔をぐしゃぐしゃにしてそう叫ぶと、棒立ちになっていた雲長の脇を駆けぬける。
しかし、低木に裳裾と足を引っ掛けて盛大に地面へ滑り込んでしまった。派手な音に雲長が振り返ると、孔明は埃にまみれた頭髪や衣に枝葉を生やしたままの恰好で、わあわあと幼子のような泣き声を上げながら城中へと走っていった。
意味不明の罵りを受けた雲長は眉をひそめ、しばらくその場に立ち尽くした。

 

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