三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.173
2012/05/12 (Sat) 23:46:35
昨年スパークのプチにおける、ペーパーラリーに使用した雲花。
帰ったあとの長岡君と。
半年くらいたっているので時効だろうと思いました……。
データはもちろん残っていないので打ち直しました。……直したかったところもあったけど恥さらしも今さらなのでそのまんまにしました。面倒ってわけじゃない。
帰ったあとの長岡君と。
半年くらいたっているので時効だろうと思いました……。
データはもちろん残っていないので打ち直しました。……直したかったところもあったけど恥さらしも今さらなのでそのまんまにしました。面倒ってわけじゃない。
「花。呼んでる」
「ありがとうございます。ちょっと行ってくるね」
長岡広生にそう言われ、机を囲んで話していた友人二人に声をかけた花は、教室の入口に佇んでいる違うクラスの女子のもとへ駆けていく。
かなはその背を眺めたのちに、花の隣である、窓際の自分の席へ戻った広生を振り返り、彩はそんなかなを見たあとで同じく長岡のほうに目線を振った。
無言で送られる視線に、広生は顔をしかめて睨み返す。たとえ花の友人だとて遠慮はない。
「長岡ってさー、……敬語萌え?」
「……は?」
「かな」
「だって、花、長岡には敬語使ってるし」
教師や先輩以外に敬語で対応している姿など見たことがないと、かなは笑いながら言う。その説明に彩は肯定も否定もせず、にやりと口角を上げているかなに目を眇めたのち、頭を傾けて広生の反応を待った。
無表情になって彼はため息をつく。
「……あいつの癖だろう」
「クセ? 花にそんなクセあったっけ?」
彩が頬杖をついて否と簡単に答えれば、かなはやはりというようにますます笑みを深めた。
さらなる追及をしようとしたところで、花が小走りで二人のところへ戻ってくる。自分のいない間に発生したらしい微妙な空気に感づき、花は目を瞬かせてから小首を傾いだ。
「どうしたの?」
「長岡の趣味について」
「え? 広生君の趣味? ……何で?」
「おい」
広生が不機嫌な声で制止するも、かなは構わず先刻の遣り取りを花に聞かせた。彼女の個人的な意見が多分に混ぜられていたので理解に時間がかかったが、事態を飲み込んだ花は、ゆっくりと頬を赤らめていった。広生は眉根を寄せて俯き、額を押さえて嘆息する。
「やっぱり長岡のせいなんだ」
「こ、これは!」
「言い訳なんてする必要ないよ、花。かなは面白がってるだけなんだから」
「言い訳じゃないよ! 癖なんだからしょうがないじゃない!」
両手の拳を握ってまでの花の力説に、かなのみならず彩までもがきょとんと目を丸くする。広生の言ったことは逃げ口上であると踏んでいた二人にとっては予期せぬ反論だった。
小さくも口を開きっぱなしで黙ってしまった二人に対し、花がなおも言い募ろうとして机に手を着いたとき、教室のスピーカーからチャイムが鳴り響いた。彩とかなは得心が行かなかったのだろう、首を傾げながら自分の席に戻っていく。
頬を膨らませた花が着席すると、広生がため息をつきながら視線を動かした。
「その癖は直したほうがいい」
「す、すみませ……ごめん。これから気をつける」
広生の私的で花はしょんぼりと頭と肩を落とした。
「まあ、――時間が経てば慣れるだろうさ」
薄く笑みを刷いた広生に倣い、花もうっすらと笑顔をたたえた。
教師が入ってきたので、花は顔を正面に向けなおしたが、広生は一度だけ教壇を見たあと、こそりと窓の外に目をやった。
コンクリートのビルが立ち並び、すべてを見渡すに難儀する狭苦しい世の中。自分たちの生きていく場所はここで、彼らと過ごしたあの世界はどこにも存在しない。家族のようであったひとたちとは、もう二度とまみえることはないのだろう。
――けれど、きっといつまでも忘れられぬ。
花の新しい癖になった言葉遣いと同様、薄れることなく記憶に刻み込まれているのだから。
ノートを取り始めた花の横顔を見ながら、広生は口の端をゆるく上げて手元のノートを広げた。
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