三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.170
2012/04/09 (Mon) 00:11:46
対都督、ですが、花孔明は出ていません。
公瑾、仲謀、伯言の男だらけです。語弊。
仲謀はルートじゃない限りこういうポジションというか……おこさま?な感じがします。笑
データ、まったくサルベージできなかったという連絡を受けましたのでやさぐれます。
わかっていたけど……しょぼーんしょぼーーん。
ポメ子にちょこっとそれぞれ残っているのがまた哀しい。
公瑾、仲謀、伯言の男だらけです。語弊。
仲謀はルートじゃない限りこういうポジションというか……おこさま?な感じがします。笑
データ、まったくサルベージできなかったという連絡を受けましたのでやさぐれます。
わかっていたけど……しょぼーんしょぼーーん。
ポメ子にちょこっとそれぞれ残っているのがまた哀しい。
「おい、公瑾」
回廊を歩いていたら、背後から呼び止められた。その場で立ち止まり、ゆっくり身体を反転させると、腕を組んだ仲謀が、些少、横柄な物腰でこちらを見とめている。その背後には伯言を従えていた。両腕で書簡を抱えているので、おそらく荷物持ちに捕まったのだろう。
公瑾は優雅な所作で官服の袖口を合わせ、若き主君に礼をとった。
「如何かなさいましたか」
微笑を浮かべて仲謀を見ると、彼は少し首を傾げたのち、自身の右肩を指先で軽く叩いた。
「何かやったのか。朝議の最中も気にしていただろう」
口角を上げて楽しげに仲謀が問いかける。すると、公瑾は目を細めて笑み返した。気づかれぬようにしていたと思ったのだが、つもりであったのかと内心で自嘲するも、こんな些細なことに目が向いた仲謀の観察眼に恐れ入る。――朝議に身が入っていなかったのだろうかと少し困りもしたが。
見られていたのならとぼけることもできまい。公瑾は袖口から出した指先で自らの肩口をそろりと撫でた。
「衣に傷が擦れてしまいまして。――ですが、どうぞお気遣いなきよう」
あっさりした告白に仲謀が目を瞠った。けれど、傷という単語に反応して前のめりになる。なにゆえそのような場所に傷を負ったのか、また、そのような仕儀に至った理由が気にかかるらしい。
仲謀が無言にも全身で疑問を持ったことを表している。公瑾はため息をついて苦笑し、立話もはばかられるとて道行を促した。
「昨夜、久方振りに構ってやろうと手を出したら噛まれました」
「はあ? 噛まれた? 誰に……って、ああ、あれか、孔明が拾ったっていう犬か」
せっかく進みだしたというのに、仲謀は公瑾の言葉を聞いてすぐ大声を出して立ち止まった。大きな眼をさらに見開いて公瑾の顔を仰ぐ。
仲謀の反応に、公瑾は眉尻を下げた。主というより、弟の稚い態度をやさしく受け止めるような、やわらかい視線が仲謀に降りる。固い情を結んでいた先代に似た振る舞いは、懐かしくも切ない感覚を公瑾に覚えさせた。
「お前に懐いているんじゃなかったか? 確か、孔明が尚香に愚痴を言っていたと聞いたが」
仲謀は再び腕組みし、首を傾げる。
孔明が公瑾の妻女として邸へ引き取られたのちのことは、尚香や二喬から情報がもたらされることが大半だ。彼女たちは訊いてもいないことまでを教えてくれるので、あらゆることが仲謀の耳に入ってきてしまう。その流れは公瑾も処置に困じているが、尚香はともかく、あの二喬の口をふさぐことは恐らく誰にもできようはずがない。
公瑾が目を眇めたのは一瞬のこと。すぐに涼やかな笑みを浮かべた。
「しばし邸を離れて相手をしてやらなかったので、拗ねたのかもしれませんね」
「へえ……。なあ、その犬、一度連れてこいよ。俺が相手してやるから」
少年のような朗らかさで仲謀が言えば、公瑾はすぐさま首を横に振った。
「とんでもない。あれも弁えはしましょうが、御身に大事があってはなりません。躾が済みましたら、御前へお連れしましょう」
「どれくらいかかる?」
「確約は致しかねます。執務を怠る口実にされでもしましたら、私が子布殿のお叱りを受けます」
「なんだ、つまんねえの」
仲謀は後頭部で手を組み、口先をとがらせて再び回廊を歩きだした。足取りが常より少しばかり乱雑なのは、公瑾に先手を打たれて思うとおりにならなかったからかもしれない。しかし、それを責めたてるようなことはせず、誰に言われずとも己の不明を省みて改めるところはとても好ましく映る。
先を行く後ろ姿に、亡き友が不意に重なった。けれども公瑾はそれを仲謀に言うつもりはない。彼は彼であり、文台の、そして伯符の願いを受け継ぐものであるからだ。
――伯符の姿を見失って嘆いていたのに、そうと受け止められるようになったのはいつのことだったのか。すでにそれすらもわからなくなっている自身に、公瑾は笑うことしかできなかった。
仲謀の背中を眺めていたら、横顔を軽く突く気配に気づく。書簡を抱えたままの伯言が、盛大に顔を顰めて公瑾を見やっていた。伯言は公瑾の肩と微笑を刷いていた顔を見比べ、ぽつりとこぼす。
「都督の肩のそれは、……もしかしなくても、孔明先」
「伯言」
公瑾は低音で彼の字を呼び、すべてを言わせなかった。鋭く細まった公瑾の双眸が、眼下の伯言を冷たく見下ろす。
「仲謀様に駄弁を弄するな」
「……もし言ったら?」
「さて。どうしてくれようか」
公瑾は顎をつまんでそうつぶやく。向けられた薄い笑みに、伯言は身の縮む思いがした。背筋に悪寒を感じて身を震わせたなら、彼はとたんに平坦な表情に戻って袖を払った。遠くから振り返っていた仲謀に会釈をし、颯爽と身をひるがえして去ってゆく。
伯言は彼を見送ることはせず、小走りで仲謀に追いつき、歩みをはじめた後ろに従った。
「あの公瑾に噛みつくなんて、ずいぶん根性のある犬だな。やっぱり一回見てみてえ」
笑いながら仲謀は言う。しかし伯言はそんな主の陰で口端をひきつらせた。
「なあ、伯言。お前から孔明に言ってみろよ」
「……仲謀様は奥方様をお迎えなさったほうがよろしいですね」
「ああ? 何で急に嫁取りの話になるんだ」
「気のお強い奥方様をお迎えになれば、きっと仲謀様もおわかりになるかと」
「だから! 何で犬の話をしてんのに女の話になるんだよ!」
仲謀の怒声を一身に受ける伯言は、怒れる主からそっと冷めた視線を逸らす。こうまで言ってわからぬとは青いにもほどがある。
――孔明先生、公瑾殿。ほんのちょっぴりお2人をお恨みします。
伯言はやるせないため息をつき、なおも言い募る仲謀の背を強引に押しやって執務室に向かわせた。
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