思い余って花孔明。お相手は都督ですよ。
一度は書いてみたいなーとボヤボヤしてたら妄想が広がった!
というか広がりすぎて収拾つかねえ。なにこれ。自分の頭が楽しすぎる!(可哀想すぎる…)
ガッツリ書いてみたいけど遅筆だからムリムリムリム(ry
てか何か、これは公瑾党への入党フラグなんですか? 玄兄のフラグへし折られつづけ、10万本の矢はこれでもかというほどしこたま集めましたよ、都督。
都督のカテゴリに振り分けちゃったけど、花孔明は新しくカテゴリつくったほうがいいのかな。
各軍でまとめるのと、今みたいに個別のと、どっちのほうが見やすくてわかりやすいんでしょうかね。
あんまり縦長になりすぎるのもなあ。見づらかったりしたら指摘してやってください。拙者も勉強してきます。
拍手、ありがとうございました! ふふふのふー!
欠けては満ち、満ちては欠ける天上の月。
似たような月を、いつか同じように見上げていた気がする。
彼女は質素な着物に薄い上掛けを羽織っただけの姿で庭先にいた。背の中ほどまでの髪は結い上げられずに垂らしたままで、外気に冷やされた微風に揺れていた。冬を間近に控えて吐息は白く、空気はわずかに凍えていたけれど清浄で心地良かった。
瞼を下ろしてひとり静かに闇に煌く月明かりを全身に浴びていると、背後から乾いた音が近づいてきた。珍しいこともあるものだと、彼女は黙して月光を身に晒しつづける。
「そんな薄着でいて、風邪を引いても知りませんよ」
「あなたが知らないうちに引いて、あなたが気づく頃には治りますから。どうぞお気遣いなく」
「私を虐めて楽しいですか」
「それはもう」
隣へ立った人物に、そこでようやく薄い笑みを浮かべる顔を向けた。袖口で口元を隠し、細めた視線で見やった彼は困ったように眉尻を下げている。色男が台無しだ。彼女はふっと息をこぼして笑った。
「私などほんの少し余所見をしただけでこの数倍は嫌な思いをするのですから、これくらいは許容なさいませ。今を時めく周公瑾ともあろう御方がせせこましい」
「……漸くの休暇に急いて帰ったらば早速に冷たい妻の仕打ちとは。私も報われないものです」
「それは、いくらお国のためとはいえ、こんな嫁き遅れのわがまま女を娶らねばならなかった時点でお気づきになってもよろしかったことでしょうね」
「それでも私は貴女が良かった」
そう言って彼は、手に取った彼女の一房の髪に口づけた。やわらかくて冷たいそれは、まるで彼女のこころのよう。どれだけの時間を経ても頑ななままで、一向に凍てついた壁を取り払ってはくれず、夫婦として向かい合っていてもどこか遠くを見、いずことも知れぬところに思いを馳せている。
思いの在処をいくら問うても応えはなく、ただただ淋しそうに、あなたにはわからぬと儚く笑うだけ。
どれだけこころを砕いて尽くしても、受け入れる側から拒絶されてしまっては何も届かず、理解もされぬ。
そして閉ざされていては、彼女が何を望み願っているのかも掴むことすら叶わない。
無表情で彼の挙動を見る彼女の紅唇に口づけても、今その瞬間にすら何を思っているのか、彼にはまったく読みとれなかった。
「……約束を反故にしてもいいのですよ?」
「ご冗談を。あれは貴女からの一方的なものなどでなく、私自身の宣誓でもあるのです。それくらいは受け入れていただきたい」
「すでにあなたを受け入れてここにいます。これ以上、何を望まれますか」
「私には欠片もくださらぬ貴女のこころを」
真直ぐに彼女の瞳を覗きながら告げると、彼女はやはり儚く笑った。ついで顔を伏せて瞼を下ろす。
「在りもしないものを求められても困ります」
「下策を弄した男になど、愛情の一滴も与えられぬと?」
「……本当に、あなたに満足していただけるようなものなど在りはしません。こころなど、とうの昔に磨耗しつくしてなくなってしまいました」
月光に照らされる顔はとても蒼白く映る。鋭利な視線で見下ろされるも、彼女はそれをやわらかく受け止めて夜空を仰いだ。
廻る世界の駒と成り果てたあの時からすべて失うばかりとなった。その生において得たものはいずれも生命を終えると同時に改められ、始めからなかったことにされてしまう。今生で夫婦の契りを交わした相手とて、次に逢ったときには何も知らぬ赤の他人。想いを寄せることすら儚く、ではそれならば最初からひとを恋い慕うことなどしなければいいと、――そんなふうに諦観するようになったのは何度目の生命を授かったときだったか。
経緯はどうあれ、彼が伴侶たるこの身を誠心誠意慈しみ、愛情を傾けてくれていることは事実だ。醒めた女のこころを得たいと望む気持ちも、おそらくは本気のことなのだろう。
引く手数多の美丈夫が美辞麗句を並べ立て、言の葉だけでは足りぬと言えば、次には奢侈品片手に機嫌を伺いに来る。それはとても滑稽だけれど、同時にとてもいとおしい感情を呼び覚まさせる。
けれど、それを真に受けてひとときの情に溺れ、後々に虚しくなるのは自身だけだ。愛し、愛され満たされてもその場限り。結ばれた絆は永遠のものと尊ばれずに霧消してしまう。
睨むように眺めやった彼女の眦から涙が頬を伝った。雫は筋となり、やがては一筋の細い流れとなる。
「私が死してのち、あなたは私を憶えていてくださいますか?」
「無論。貴女は私にとってかけがえのないひとなのですから、当然でしょう。私こそ貴女に問いたいところです」
「それはもちろん。いつの世にもあるあなた方の姿を、私たちはずっと憶えていますよ」
「私たち……?」
「とんでもない乱暴者だったり、奇妙なほどにやさしかったり、私のことを殺したいほど嫌っていたあなたのことを、忘れたりするもんですか。……いいえ、いっそ忘れられたらどれほど良いか……」
「……孔明、殿?」
つぶやくように呼ばわると、彼女は小さく首を振った。上向いていた視線が彼に向き直り、無理にかたどった笑みが浮かぶ。年端のゆかぬ少女のような苦渋に満ちた表情は彼を惑乱させた。
「なぜ泣くのです。――どうして泣いたりすることがあるのですか」
言葉の途中で二人の間の距離がつと縮まる。泣いたままの彼女は自ら彼の胸中に飛び込んだ。
突然のことに驚きはしたものの、彼はそっと華奢な身体に腕を回して抱きしめた。気丈な彼女の涙の意味を図りかねたが、今はきっとこうすることが正しいのだと思えた。
「……私ではありません」
「孔明殿?」
「違います。それは、私の、名前じゃない……」
理解に及ばぬことを繰り返す彼女の身体が小刻みに震えている。彼はそれを慰め、宥めるように腕や背を撫でつづけるが途方を失っていた。
彼女が内包している闇はとてつもなく深い。それを理解しようと踏み込めば踏み込むほど、彼女は遠ざかってしまう。なぜそうなるのか、なぜそうするのかは彼女にしかわからない。
――添えぬのなら、身を委ねたりせず厭ってくれたほうが諦めもつくだろうに。
「私はただ、……ただ、貴女が欲しいだけなのに」
深く抱きしめた彼女の耳元にそうつぶやく。
彼の強い鼓動が聞こえる胸元を濡らし続ける彼女は、その言葉に嗚咽をもらすと、縋りついて童女のように泣き続けた。
得たくとも失われ、失くした途端にまた胸中へと生まれ出づる人恋しさ。
いつかもこんなふうに、失うことを恐れて誰かの腕の中で泣いていたような気がした。