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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/11/24 (Sun) 12:08:20

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No.162
2012/01/31 (Tue) 01:18:22

リクエスト内容は「文若さんちのお年玉」ということで。
花と令君、その息子と娘による、とある正月の風景というかなんというか。
お年玉……? な感じになってしまったような気がします。いつもこんなこと言っているような気もします。どんだけだ。

タイトルがこんなですが、まあいつものようにセンスがないのだと思ってください……。
リクエスト、ありがとうございました!



正月には、故郷で食べていたものだと言って花が作る雑煮もどきを、家族だけでなく、邸の使用人たちにも振る舞う。これは花が文若に嫁いでから慣例となったことのひとつだ。
もうひとつは、子どもにお年玉を渡す。提案は、やはりこちらも故郷の風習だという花からで、子が出来て親となった2人で決めたことだ。
それは本当に必要なことなのかと文若は疑問に思ったが、花は子どもの教育のためだと意気込み、夫が得心するまで熱心にその意義を説いた。訝しくはあったものの、なれば経過を観察してみようと試みたことが続いて現在に至る。
家族で食事を済ませたのち、居室にてそれは行われた。
少量の貨幣を包んだ手巾が、花から文若に渡される。ぽち袋の代用とした白い手巾には小さな赤い花の刺繍がある。これは真っ白では味気ないとして花が施した。
お年玉は家長である文若から、息子、次いで娘へと渡される。両手で受け取った息子は、隠しきれぬ喜びでほころびそうになる口元を懸命に引き締めて文若に頭を垂れた。はじめてもらうことになった娘は満面の笑みでもって礼を言い、手巾を小さな手に握りしめる。
金銭を渡したりして良かったのだろうかと強く考える反面、記憶に薄い満面の笑顔の子らを目の当たりにし、仕事ばかりにかまけてわが子に気を向けていなかったことを反省する。毎年のように思っているなと、文若は目の前に座す息子と娘を眺めて苦く笑った。
「しっかり計画を立てて使え。無駄遣いはするな」
「はい、父上」
力強く息子が頷いたのを見て、文若は微笑を浮かべた。花もそんな2人を見やって笑みをあらわす。
生真面目な父親の背を見て育つ息子は、同じく四角四面な性質になるのだろうか。夫に似た顔つきにすらりとした恰好の成長した姿をぼんやりと想像してみたなら、――いくつになってもそそっかしい母親にため息をつく光景が脳裏をよぎってしまい、花の視線がわずかに泳いだ。あり得ないと否定できないところがまた哀しい。
息子が似るなら娘も似るのか。花が目をやったその先では、娘は眉尻を下げ、小さな唇をつんと尖らせていた。夫にとてもよく似ていると揶揄されたが、自身でも瓜二つだと思った。
どうしたのと、やさしい笑顔の母に問われた娘は、立ち上がって花の前にやってくる。そして、手の中の包みを差し出して言った。
「あにうえのほうがおおきくてずるい」
「え? ――え?」
笑顔のままで花は固まり、首を傾げた。娘はさらに手巾をずいと押しやる。
「おなじじゃないもん。いっしょじゃなきゃだめ」
「……えーと」
花は助けを求めてちらりと文若を見た。茶を飲んでいた彼も気にしていたようで、目線を花たちにやっていたのだが、黙して何も語らなかった。
中身の割り振りは文若とも話し合って決めた。年長者である長男へ多めに、長女であるが妹である娘にはそれより少なくしてある。いわゆる年功序列、というやつなのだが、まさかこんな形で苦情が出るとは思わなかった。幼い顔に不平不満がありありと浮かび上がっているのを目の前に、花はこぼしそうになったため息を飲み込んだ。読み書きをこれから学ばせる娘に年功序列を説明したところで理解できようか。
茶請けの菓子にしろ、衣や小物にしろ、子どもに与えるものは平素から等しくしてきた。それがこんな形で障害になるとは想像もしなかった。とんだ落とし穴だ。
息子は困惑気味に父母の顔を見比べているが、文若は相変わらずだんまりを決め込んでいる。援護の機会を計りかねているのか、花がどうするかを見守っているのか、それは誰にも判別がつけられなかった。
花は手巾を突き出している娘の手をとり、両手でやさしく包み込む。それから、長男のほうが年上なので同じようにはできないのだと、なるべく易しい言葉を選んで説明をしてみたが、彼女の不満が取り除かれることはなかった。――それどころか、ますます不機嫌になっていく。
こんなことになるなら一緒に渡すのではなく、別別に渡せばよかったかもしれぬ。
膨らんだままの娘の頬を目にし、花は予期せぬ困難を思ってため息をついた。
が、ふっと何か思いついたように目を見開いた。
「今年は1歳お姉ちゃんになるんだし、来年はお兄ちゃんと一緒にしよう。ね?」
年齢の数え方は元の世界と異なるが、年が改まったので娘もひとつ齢を重ねる。少少苦しい言い逃れになるが、花にはこの場を治める方法が他に思いつかなかった。
膨れ面の娘の肩を撫で、つぶらな瞳を覗きこむ。すると、ややあってから娘は頬を萎ませてからきょとんと目を丸くさせた。それから緩やかに、それとわかるほどに目を細め、小さな口の端を上げていく。
効果があったと花は瞬時に安堵した。しかし、娘は思いがけぬことを言い放って母親を硬直させた。
「わたし、あねうえになれるの!? いつ? いつなれるの?!」
母親の袖をぎゅっと握りしめた娘は、顔を紅潮させて花に詰め寄った。直後、後方で文若が茶を吹き出してむせかえり、息子と侍女を慌てさせる。
「わ――私は聞いておらぬぞ、花! それは真か!」
「ええっ!? ちち、違います! そうじゃなくて!」
「……ちがうの? あねうえになれないの?」
「そ、そういう意味のお姉ちゃんじゃなくてー」
見る間に、娘の大きな目が潤んで涙がたまっていく。宥めようにもうまい言葉が見つからぬと花が狼狽していれば、年かさの侍女がぼろぼろと泣き出した娘のそばに膝をついた。背を撫ぜ、濡れた頬を拭う。
「そうお泣きにならずとも、姫様はきっと姉上様になれますよ」
侍女の言葉に花がぎょっとした。けれど、侍女は声を立てぬよう女主人に目配せする。
「姫様が普段どおりに、父上様と母上様のお言いつけをお守りしていらっしゃれば、そう遠くない内に、必ず願い事は叶いましょう」
「ほんとう……?」
侍女が笑みながら頷き、袖を翻して文若を示す。急に矛先を向けられた文若は、常にも増して深深と眉間にしわを刻みこみ、居住まいを正した。
「良いか。お前の望みは、母上はもちろん、私の一存でも決めかねることなのだ。なぜならば、すべては天の配剤によるものであり」
「……文若さん」
父の言うことが難しすぎてわからぬと、再び泣きはじめた娘の存在を教えるように花が言葉を遮った。侍女にしがみついて鼻をすする娘に、文若は考慮しておこうと喉を絞って言った。
侍女が居室から娘を連れて庭へ降り、ひと騒動が落ち着く。すると、それまで影の薄くなっていた息子がお年玉を父に戻そうとした。妹と等分でかまわぬと言う息子の気遣いを止めてそのまま持たせる。
息子を居室から退室させて静寂を招くと、文若は花と並んでため息をついた。
「……まったく。他に言い様はなかったのか」
「そんなこと言うなら、文若さんが説得してくれたらよかったじゃないですか」
自身の子とはいえ、分別のつかぬ幼子に理を言い聞かせるのは根気がいる。どっと押し寄せてきた疲労を感じながら、2人は顔を見合わせることなく言い合った。
「来年は、ひとりずつ渡すようにしませんか? ちょっと気が早すぎるかもしれませんけど」
夫婦で決めたことなのに、責任の押し付け合いをするなどとても不毛だ。
花がいま一度ため息をついてから、ゆっくりと首をめぐらせて文若を振り返る。――と、彼は小さく咳払いをしてから、正面を見据えたまま口を開いた。
「……もう1人ほど子をもうけるに吝かではない」
「え?」
「私の妻はお前しかおらぬ。ゆえにお前が産むしかなかろう。私は丞相ほど器用ではない」
「あ、あの、ええと、それって……」
「改めて聞くな、莫迦者っ」
顔はもちろん、耳や首まで赤くさせた文若は、珍しく荒い足取りで居室を出て行き、取り残された花は、しばらく目を瞬かせながら彼の言葉を反芻した。
そして、遅れること数分、言われた意味を理解した彼女は、庭から戻ってきた子らを母が病気になったと騒ぎ立てさせるほど、夫にも負けぬ勢いで肌を赤赤とさせた。


その夜、夫婦の寝所では、早早に来年のお年玉に関する話し合いが設けられた。互いに意見をすり合わせて結論を整然とまとめていく文若の姿は、まるで恋人時代に彼の執務室で過ごした時間を思い出させ、花に甘い気持ちを齎した。
――しかし灯りを消して就寝する際には、何とも言い表せぬ微妙な雰囲気に包まれたという。

 

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