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三国恋戦記二次創作/初来訪の方はaboutをご一読ください
No.
2024/11/24 (Sun) 10:46:49

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No.114
2011/05/17 (Tue) 00:27:52

風邪のお題、9本目。
これはタイトルで、すぐに丞相だなーと思いました。玄兄のときと似たような感覚で。笑
普段よりちょっと短め。
丞相を格好よく書こうとするとこうなる……(それはひどいだろう)




「うつしてもいいよ?」
そう言った孟徳は、いそいそと花の横たわる寝台に滑り込んだ。肘を突いて頭部だけを高くしたまま熱で赤らんだ頬を撫で、呆気に取られている彼女を微笑みながら見下ろす。
「……そういうのは、ダメです」
「どうして? 花ちゃんが早く快くなるのはもちろん嬉しいし、元気な花ちゃんに看病してもらえる俺も嬉しい」
「ひとからうつったほうが、症状がひどくなるって聞いたことがあります。……孟徳さんが辛くなっちゃうのは、ダメです」
掠れた声でつぶやいた花は毛布を引き上げて顔を隠す。けれど、すぐに孟徳が手をやって目の部分だけを表に出した。潤んだ瞳で睨みつけて孟徳の言動を諌めるも、彼にはまったく効果がなかった。それどころか、妙な部分をくすぐってしまったらしく、孟徳の顔が瞬時に脂下がった。まるで筋肉という筋肉がなくなってしまったような崩れ方だ。
元譲や文若がいたらきっとすぐ突っ込みが入っただろう。花はそんなことを思いながら小さく咳をした。渇ききった喉に痛みが走ったので眉根を寄せると、孟徳はすぐ反応して胸元を撫ぜた。
「も、もう……っ」
「うんうん、他意はないから興奮しないの。そういうのは元気になってからってちゃんと考えて我慢しているよ」
孟徳は苦笑して、身体を丸めて咳を繰り返す花の背を擦る。なかなか止まぬ痛々しい音に顔を顰めるが、それは彼女に知られることはなかった。
花の状態が落ち着くのを見計らい、側机から冷水の椀を取る。少しだけ頭を持ち上げて椀を近づけ、ゆっくりと彼女の口に含ませた。
薬はもちろん、水から白湯、瑞瑞しい果物と、様様なものを彼女のために取り揃えさせ、花が望んだときすぐ供せるよう傍に置かせてある。やりすぎだと彼女は弱弱しく言ったが、無駄になるとは思わなかったし、いっそ無駄になるほど疾く快復してほしいという孟徳の思いもあった。――実際には無駄になどならず、密かな願いも空しく花は風邪をこじらせているわけなのだが。
孟徳は額に張りついた前髪を指で払いつつ、深い息を吐いたばかりの濡れた唇に舌を這わせる。その行為に再び息を呑んだ花に笑いかけて、騒いではいけないと口に人さし指を立てた。
赤い頬が熱によるものではなく、単なる恥じらいで染まったものであればいいのに。頭部に回したままの腕を丸め込んで胸に引き寄せた。衣越しにもわかる体温の高さが嫌になる。
「俺もここに寝たきりになろうかなぁ」
「……孟徳さん」
「そうしたら文若の嫌味も聞かずに済むし、ずっと花ちゃんを構っていられる」
立場が逆であるなら花が辛くてこころを痛めるというように、彼女が臥している現状は、見舞える時間が非常に短く限られている孟徳のこころに翳りを落とす。
一緒にいたい。片時も離れず、常に傍らにあってほしい。こころを余さず自分だけに傾けてほしい。
ずっと一緒にいて、止めることの叶わぬ時の流れを、永久に分かち合いたい。
花の呆れたような視線を受けて、孟徳はいっそ晴れやかに笑った。
「それに、辛いことも2人で分けたら半分になるでしょ」
「文若さんのお説教は分けられませんよ?」
「むしろ倍になりそうだ」
そう言って孟徳がおどけて肩を竦めてみせると、花がくすりと笑顔をこぼした。
赤いままの花の頬に一度だけ唇を落とし、孟徳は名残惜しみを垂れ流しながらのんびりと起き上がった。
散らばる髪を梳いて花を見つめる。手の甲で頬を薄く撫ぜれば、彼女は目を閉じてその手に擦り寄るよう首を少しだけ傾けた。
「また様子を見に来るよ」
「寝てたら、起こしてくださいね」
「うーん、それは可愛い寝顔を充分堪能してからになるかな」
仕様のないひとと苦笑した花に、ひらりと手を振って孟徳は背を向けた。部屋を出る間際に咳が聞こえたが、歯を食いしばって扉を閉じる。背を預ける戸の後ろから咳き込んでいる様子が窺えたけれど、踵を返して再び入室することは我慢した。
執務室には文若や他の官が待っているだろう。各省から上がってくる議案の可否を捌き通しても、片付けねばならない案件は次から次へと舞い込んでくる。
自らが決めた道のために避けることは出来ぬ。投げ出すことなど以ての外なのだが、――しかし。
実に滑稽だ。妻妾にさえも委ねることなどなかったのに、ほんの気紛れで連れてきた娘に入れ込み、堅く誓ったことすら絆されて破った。慣れぬことへの慄きを稚くも純然とした気持ちで包みこんでくれる。その存在の、なんと愚かで愛おしくあることか。
思案に耽りながら摘んだ顎を摩って孟徳は自嘲する。
けれども仕方がない。こころを他人に預けることで得られる歓楽の味を教えたのは、他ならぬ彼女のこころなのだから。
うつして、――移しあって、互いのこころを知らしめあえればもっと良いのに。
風を切るように緋の袖を大仰に払った孟徳は、果たすべく約束の叶うべき刻の訪れの楽しみに口の端を上げてその場から立ち去った。

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