こんなん出ましたーという感じです。
どきどきどきどきどきど(ry
先日、別ジャンルで構ってくださる方と一緒に中華街へ行って……もらったというかなんというか。三国(not恋戦記)でもりあがっちゃったー! という感じで行ってきました。
関帝廟でもらったパンフレットを見て、長岡雲長の謎がひとつ解けた! と喜んだのも束の間、劉協だから叶ってこと!? と1ヶ月半も経ってから思い至った自分に切なくなった瞬間に似ていたのがなんとも……。
他にも色々話したんですけど、幕使いの彼女にも是非プレイしてほしいので、移植か幕版を希望したくなった日でした。長々とどうもありがとうでしたー。
拍手、ありがとうございました! 励みになります!(-人-)
泥のように眠ったのは久方振りのことだった。
ふと気がつけば、隣の布団からは厚みが消えていた。しかし早安は再び瞼を下ろして薄い布団を肩まで持ち上げた。小さく聞こえる生活の音が心地良い。何をしでかしているのか不安になる雑音もたまに入ってくるけれど。
程度を見計らって起床する。古びた木の窓の隙間から明かりは見えず、未だ太陽が昇っていない刻限であることが知れた。
「おはよう、早安。もうちょっと待ってね」
手狭な家屋では、灯りのない薄闇の中でも相手の顔が見える。これはいつでも相手の表情がわかる喜ばしいことなのか、それとも、灯りひとつに困る生活を悩むべきことなのかは判別しがたかった。
出入り口に近い竈の前に立っている少女は、木杓子で鍋をかき回したり、膳を整えたりと忙しなく動き回っている。火があるからか、灯りは一切点けていない。日頃の節約意識の表れだろうか。
ちょこまか動く様をしばらく見つめてから、早安は身支度を始めた。
今日は薬草の仕入れを兼ねて遠方へ出向かねばならない。手近な山などで入手できるものでは、調合できるものも限られてくる。今あるものだけで済むのならそれに越したことはないが、手に余る自体も少なくない。そうした事態を防ぐためにも、時折ではあるが村を離れて必要なものを調達しにいくのだ。
皆の役に立つのならと、彼女は笑顔でそれを快諾した。馬はないので時間がかかる。一緒に行くより1人で行くほうが格段に身軽だが、彼女を残していくのは不安ばかり。自らの提案に躊躇する早安の背を押したのは、大丈夫だよという、やはり彼女の微笑みだった。
布団を片付け、旅支度を済ませたところで、花が朝餉の膳を持ってきた。粥と汁物、山菜の和え物といった簡素な献立だが充分満足できるものだった。
「この前に取ってきた蕨を使ったんだ。どうかな?」
「ああ、美味い」
「ほんと? よかったー、いっぱい作ったからたくさん食べてね」
笑顔でそう言うと、花は自分も箸でつまんで蕨を口に入れる。
京城に身を寄せていた頃よりかなり質素な生活だが、彼女は文句ひとつ言わない。申し訳ないと思う気持ちを見透かすように、花は今の生活を気に入っていると――好きなひとと一緒にいられるのだから気にならないと言葉にしないで示し、いつもさりげなく教えてくれる。
小さな灯りの中に浮かぶその笑みこそ何よりのもの。早安は彼女が提供してくれる色々な話に耳を傾けながら食事を進めた。
食後の片づけを手伝ってから表に出た。空は黒く外気はひんやりとしていて肌寒い。周囲はまだ眠りの中にあり、足音ひとつ立てるにも細心の注意を払った。
短い蝋燭を立てた燭台を手に、花も早安の見送りに外へ出る。見た目にも大分草臥れている外套を纏い、小さな荷を担いだ早安へ、花は小さな包みを渡した。中身は握り飯で、お腹が空いたら食べてくれと言った。受け取ったそれは出来たてでほのかに暖かい。彼女の気遣いに思わず早安の顔が綻んだ。
手を伸ばしてまろみのある頬を撫でる。
「早く戻る」
「遅くてもいいから、気をつけてね。……無事に帰ってきて」
花は早安の手に自身のを重ねて強く頬に寄せた。憂いの滲む表情にこころが揺らぐ。ここでの生活に慣れてきたとはいえ、独り残していくのはいつも心許ない。
今からでも同道させようかと思い立って口を開きかけたとき、まるでその考えを払拭させるかのように彼女は静かに微笑んだ。早安はそんな彼女に顔を寄せ、額をつけて潤む瞳を間近に見る。
「家の修繕をしたり、薬の種類を覚えたり、やることはいっぱいあるから大丈夫。まだかなって待っているのもあっという間だよ、きっと」
そうして強がってみせる花の唇をわずかに啄ばんだ。彼女は刹那の出来事に驚きに瞳を瞬かせるも、目元を朱に染めて静かに笑った。
早安の姿が見えなくなるまで、花は蝋燭の火が消えるのではというほど懸命に、家の前でずっと手を振って彼のことを見送った。
行きは順調だったものの、帰りは思った以上に難だった。土砂降りの雨に見舞われて足止めを喰らった挙句、止んだら止んだで雨水によってぬかるんだ路を進むことになった。
かさばった荷物はなるべく丁寧に扱いたかったので、無理を通したくないけれど可能な限り足を速めた。計算外のことばかりで予定が狂ったことに苛立ちばかりが募る。
とにかく帰りたかった。花の下へ。――帰るべき場所へ。
公瑾の庇護下に置かれていたあのときとは違う感情。与えられた使命を果たし、戻らなければならなかったあの頃とはまったく心持ちが違う。
泥を跳ね上げながら走る中、早安は胸を押さえた。そこはあたたかな気持ちの湧きいずるところ。花が気づかせてくれた、やさしい感情の生まれるところ。
笑みを浮かべていることは知らぬままに、軽く息を弾ませながら早安は走った。
城門が閉じるところを寸での処で滑り込んだ。その焦りように見知った門兵には笑われたが、笑うくらいならもう少し時間をまけてくれと軽口を返せる余裕があったことに自分自身で笑ってしまう。
すでに陽は沈み、空に浮かぶ下弦の月は今にも全体が雲に蔽い隠されてしまいそうで、かろうじてこぼれる薄明かりは足下を照らすに心細い。それを背に負って影を追いかけながら灯りのない細い道を往くと、先方に小さな光が星のように明滅していた。
早安はそれを目に留めた瞬間、蓄積した疲労もどこかへ飛んでしまったように身が軽くなり、走る速度が上がったような気がした。まるで羽でも生えたような、そんな感覚だった。
直接に鼓膜を震わせるような、大きく早い鼓動は如何なる理由によるものかなどと考える余地もない。
彼女の願ってくれたまま、五体満足で帰るべきところへ帰ってきた。それがすべてだ。
足音が壁に反射して遠くへまで響く。光は明滅を止めてしとやかに輝いて、近づくにつれてしっかりとした明かりとなり、やがてその傍らにぼんやりとした人影を浮かび上がらせた。
矢も盾もたまらず、早安は渇いた喉の痛みを押してその名を叫ぶ。
「おかえりなさい、早安!」
幽かな月明かりの下で花は両腕を広げ、満面の笑みで彼を迎えた。
目に付けた小さな灯りは彼女が手にしていた燭台の蝋燭の炎。早安には彼女の在り処を知らしめてくれる、運命の光のようなものに見えた。